あなたをさらいに夜がくる ２【文スト】【深夜廻】

夜廻７３.黒の優しさ ページ45

「あ、やべェ。手袋は取るんだッた」


そう言った中原さんの手袋は、シュウシュウと音をたてて少し焦げていた



彼が手袋を取ると、軽い火傷が見える



『な、なにやってるんですか！？』

「うおっ」


掴みかかりそうな私に中原さんはよろけた



『火傷って跡に残りやすいんですから！

折角綺麗な手なんですから大事にして下さい』




彼は少しキョトンとすると、爆笑し始める



「手前、わざわざそんな事心配してんのか

ついこの間手前を拐った組織の人間を心配する
なんざ、手前も物好きだなァ」



『わ、私は真面目に心配して！』


「はいはい、ありがとさん」



「おーい。
二人ともいちゃつかないでくれたまえ」




森鴎外さんの声ではっと我にかえった




‥‥いちゃついてた訳ではない。決して！



「話を戻すよ‥‥何故か、私達はこの部屋に入
れない

原因は分からないけどね」



そう言いながら中原さんと同じように部屋に手を伸ばしかけた森鴎外さんは、私に睨み付けられて苦笑しながら手を引いた





『‥‥それで、何故私を呼んだのです？』




「あれを見たまえ」



彼の指差す方を見て、思わず背筋が凍った




ベッドの脇に置かれた、不自然な程に輝く鏡




嫌と言うほど見覚えのあるそれに、脳内で記憶がフラッシュバックする





「あんな物、部屋に置いた覚えはないのだよ


君が居なくなった後、いつの間にか置かれてい
たようなのだ


もしかすると、君に何か関係があるんじゃない
かと思ってね



それで呼んだのだが‥‥



Aちゃん？」



私の異変に気が付いた森鴎外さんが、訝しげな顔をする



私の体は、勝手にガタガタと震えだした




どうしよう。怖い




そんな事思ってる場合じゃない





エリスがピンチなんだ





止まれ。止まれ





私の意志に反して、震えは止まらない




どうしよう。怖い。怖い



「Aちゃん」




低い声が、スッと頭に流れ込んだ




顔を上げると藤色の瞳と目が合う




「焦る必要は無い


落ち着きたまえ」




その言葉に、体の震えが少しずつ引いていく




一つの組織を束ねる人間は、言葉だけでこれ程迄に他者に影響を与える



その凄さを感じた




森鴎外さんの背後には、心配そうな表情の中原さんが見える





やっぱり、こういう所は優しい人なのだ





私が、彼等の「受け入れられる所」




『‥‥すみません、取り乱しました


私は、あの鏡を知っています』

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