芽衣子篇 ページ1
私が持つ液晶に映るしゃがんだ小百合は至っていつも通りだった。
普遍的なセーラー服を自然に着こなし、ゆるく巻かれた茶髪のロングがよく似合う、可愛い可愛い小百合(どうして制服なのとか、どうしてローファー履いてるのとか、聞いたって小百合は答えなかった。その時の表情はどこか物憂げで、私はそれにすら引き込まれてしまった)。
小百合はしばらく辺りを見回して、レンズをズッと見たかと思うと、気の抜けた笑みを浮かべた。そして、なんでもないように言うのだ。
『みててね。』
小百合は慣れないタメ口で。
私は意図も訳も分からず、取り敢えず断ってもと思い、うんと返した。小百合はそれを聞いて、満足げに微笑むと、スックと立ち上がる。
コツコツとローファーとフローリングがかち合う音がイヤホンから鼓膜へ直に伝わる。スマホから距離を取ったんだ。
キラリと何かが小百合の部屋の大きな窓から漏れる月明かりに反射し、光った。無駄に良い頭が故に、察してしまった。
「さゆりッ──」
瞬間、小百合は自らの首の肉をナイフで掻っ切った。
鮮血が小百合の首から勢いよくあふれる。
それは、噴水の如く。壊れた蛇口の如く。死にゆく雑兵の如く。
思わず自分の首からも血が出ているのではないかという錯覚に陥り、そっと首に手を当てた。
温かかった。
生を実感してしまって、どうせ今から何十年と生きていくなら小百合と死にたかった。
血飛沫の隙間から見える小百合はニヤリとニヒルを浮かべて、リアルを感じられなくて信じられなくて。
どうしたって、嘘なんじゃないかって。私は小百合の傷を否定するように、無意識のうちに渇いた笑いをこぼした。
死を連想させるほどにあふれ落ちる血の音の裏に、コツコツカチカチと再び響いた足音。よたつく小百合の細い脚。
出血と痛さとショックで立つこともままならないのか、遂にばたりと(そう形容するのは
ばたばたとこぼれ落ちる血の音がなくなると、奥の奥、聞こえるか聞こえないか。それぐらいの小さな音で、小百合は苦しげに息をしていた。
虫の息。
今がそうなんだと無駄なことを考えて、小百合に迫る死から逃れようとした。逃れられなかった。私の眼は思いとは裏腹に、小百合の死を見逃すまいと、瞬きの一つしやしない。
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与田 茜(プロフ) - マナさん» 文章ですか、今見返すとかなり荒削りな文章ですから、なんだか恥ずかしい気もしますが……ここは潔くお褒めの言葉を受け取らせていただきますね(笑)羨ましいとも面白いとも、言われるだけで天狗になってしまいそうです……！！閲覧にコメント、ありがとうございました！ (2019年7月29日 21時) (
レス) id: 35915b1fe0 (このIDを非表示/違反報告)
マナ - とても面白かったです！文章も上手だし、本当に羨ましいです笑 (2019年7月29日 14時) (レス) id: 6780f1cbe2 (このIDを非表示/違反報告)
与田 茜(プロフ) - バンビーさん» いやいやそんな、私には面白いの一言だけでも十分なのです……(確かにもっと沢山の人に見てもらいたい気もしますけれど、傲慢と言われそうなので心の中に秘めておくことにします)閲覧にコメント、ありがとうございました！ (2019年7月16日 23時) (レス) id: 35915b1fe0 (このIDを非表示/違反報告)
バンビー - もっと評価されるべき作品な気がします！とても面白かったです！ (2019年7月16日 22時) (レス) id: ff85299768 (このIDを非表示/違反報告)
与田 茜(プロフ) - ここ。さん» 語彙力たっぷりに褒めちぎって頂けて、感激の極みでごさいます！結ばれずに終了、だけでは小百合も可哀想ですので、それとなく幸せを醸し出したのがいい方向に転がってくれて良かったと一安心です(笑)次回作にも力が入ります！閲覧にコメント、ありがとうございました！ (2019年7月16日 14時) (レス) id: 35915b1fe0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：与田 茜 | 作成日時：2019年7月4日 6時
