第百三十四話【和を以て尊しと為す】 ページ37
「ちょっとAさん......一応、相手は敵ですよ。それに、何さらっとお茶会の約束もしているんですか!?」
私達の様子に見兼ねた敦が突っ込んだ。
「でも、私達はもう友人だし......ですよね、紅葉さん」
「うむ。Aは私の友人じゃぞ」
短時間でこんなにも仲良くなっている二人に敦は口を開けるしかなかった。
「はぁ......それで、貴方は何故此処に居るんです?その気になれば、直ぐ此処から逃げられるのに」
敦が尾崎に尋ねた。
「取引しただけじゃ。太宰と。行方不明の鏡花を見つけ出し救うならば、私はそれを大人しく待つとの」
「取引......?」
敦が尾崎の云った言葉を繰り返した。
「うむ......それに童、御主は太宰の側に居らなくて善いのかえ?」
「太宰さんは......政府の
太宰の言っていた策とは、異能特務課の協力体制を築く事だった。政府の力を借りれば、此方の勝率が上がる。しかし、利益と結果を重んじる異能特務課に協力体制を築くのは至難の技だろう。
「成る程の......異能特務課と云えば、国内最高峰の秘密異能力組織じゃ。味方とすれば、探偵社最大の切り札となるじゃろうな......」
「そうすれば遠からず、鏡花ちゃんも探偵社に戻って来られる」
「それはどうかの」
「......?」
敦が尾崎の答えに聞き返そうとした時、
「この戦争で鏡花は、じき大勢を殺 す」
その言葉に敦が息を呑むのが聞こえた。まるで、嘘のように思える話だが、彼女の言葉には重みがあった。まるで、本当にそうなってしまうような感覚が芽生えていた。
「真逆」
敦が信じられないように声を出した。
「ならば訊くが......脅され、幾月か許り稽古を受けただけの十四の童女が三十五人も殺し果せると思うか?それも、ただ一度の露見も失敗も無く?」
「それは......」
敦はその問いに言い淀んだ。敦自身もその違和感には気がついている。しかし、その違和感にも敢えて今まで触れないようにしていただけだ。
「才能じゃよ。それが鏡花の魂に黒く絡みついておる以上、あの子は闇から抜け出せぬ。人間は他人に勝てても、己には永遠に勝てぬからの────そうなれば、二度と......あの子の望む「陽の当たる世界」では生きられぬ。私が嘗てそうじゃった」
尾崎は何かを思い出すように目を伏せた。
「童、Aよ」
尾崎が私達を呼んだ。そして、真っ直ぐな目で私達を見た。
「鏡花を頼む」
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トキハル(プロフ) - 長らくお待たせしましたm(_ _)m 更新始めていきます。 (2020年3月4日 15時) (レス) id: a4508594ec (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:トキハル | 作成日時:2020年3月4日 14時