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第百ニ十七話【与えられた機会】 ページ31

パタッ......


急に樹が動きを止めたと思うと、力が抜けたように地面に落ちた。そしてすぐに再び樹が動き出す事はなかった。


「ハッ......! 根が......! 今です。走って!」


私達は再び走り出した。しかし、私達が線路に着いた時、既に列車は動き出しているところだった。私達は列車に追いつこうと無我夢中に走り続けた。その間にも列車は加速をつけるばかりで、私達との距離は一向に縮まらなかった。もう普通に走っただけでは追いつけない。


(これじゃ、間に合わない! こうなったら......)


「お二人ともしっかり捕まってて下さい!【黒】!」


私は片腕ずつ二人の体を抱えた。驚いた春野とナオミが私を見た。


「Aさん!何を......!キャ!」


私は足を強く蹴り出した。【黒】による身体強化を施し、加速をつけた。本当は能力を使うべきではないと思っていたが、今は出し惜しみをする場合ではない。国木田と谷崎がくれた機会(チャンス)を今ここで私が無駄にする訳にはいかない。


一歩進む度に着実に列車との距離が近づいていた。そして、最後にもう一度足に強く力を入れると飛び上がった。体は列車の手摺りを超え、私達は列車の最後尾に足をつけた。


「ハァ、ハァ。間に合った......ですわ」


ナオミが息を切らせながらも安堵したように呟いた。


「ありがとうございます。Aさん。だ、大丈夫ですか!」


春野が私の様子を見て、驚きながら訊いた。


私は疲れ切ったように壁に寄り掛かっていた。異能を使った所為で息も上がり、そして目眩も起こっていた。


私は春野とナオミに目を向けた。


「ごめんなさい。少し風に当たってても良いですか? だから、お二人は先に車内に入っていてください。落ち着いたら私も車内に行きますね」


「でも......」


ナオミは不安そうな顔をさせた。


「大丈夫ですよ。何時もの事ですから」


大丈夫きっといつもの副作用だ。それなら、暫くすれば治る筈だ。私は二人を安心させるように言葉を掛けた。


その言葉を聞いた二人は互いに目を合わせると頷いた。


「わかりました。では私達は先に行っていますね」


そう云って、二人は車内に入っていった。


私と一緒にいると二人に不安を煽るだけだと思っていた。この副作用も休めば治る。何時も一人で耐え抜いてきた。あとはもう何も起こらなければいいのに......


私は壁に寄りかかりながら、過ぎ去っていく景色を目で追っていた。

第百二十八話【違和感の始まり】→←第百二十六話【眸ニ実レリ怒リノ葡萄】



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トキハル(プロフ) - 長らくお待たせしましたm(_ _)m 更新始めていきます。 (2020年3月4日 15時) (レス) id: a4508594ec (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:トキハル | 作成日時:2020年3月4日 14時

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