第百二十六話【眸ニ実レリ怒リノ葡萄】 ページ30
線路はこの斜面の下にある。今から走れば間に合う筈だ。しかし、茂みの道は勿論舗装なんかされておらず、何度も木の根に躓きそうになり、前を遮る木々の葉が体に打ち付けていた。だが、今はそんな事を気にしている場合ではない。一刻も早く二人を安全な所へ......
暫く森の中を走ると下の方に線路が見えた。
「あともうすぐです! 急いでくだ「キャッ!」
叫び声が聞こえ、後ろを振り返ると春野の足に木の枝が絡み付いていた。
私は考える間も無く、刃折れの刀で根を切り裂いた。しかし、一本を切っても次々と枝が伸び始めた。そして枝の一端が私の腕を振り払った。
「......ッ!」
その衝撃で手から刀が離れてしまった。
「こんなところで! あともう少しなのに......!」
列車は今にも発車しようとしている。
(国木田さん......!谷崎君......!)
私は無意識のままに彼等のいる方向を見た。
────「よし、業務終了。妹さんは借りてくよ」
銃弾を諸共せず起き上がったラヴクラフトは触手で国木田と谷崎を捕らえていた。スタインベックは身動きの取れない二人に端的に云った。
「ナオミを......如何する気だ」
谷崎が呻きながら云った。
「担当じゃないから何とも、まぁ監 禁か拷 問か......」
「そんな事が許されると思って居るのか!」
自身の理想とは真逆の行いに国木田が叫んだ。
「これが仕事だよ。君達みたいな
ブロロロ......
そこへ、道の奥から貨物車が走ってきた。スタインベックが車に気づき横目で見た。
(貨物車か......この状況を見られたら少し面倒かな?)
「......
谷崎は静かに聞き返すように呟いた。
「確かに探偵社には道徳観がある。でも僕にとってナオミは......違うンだ。道徳とか悪、モラルやエゴ、そう云うのより次元が上で較べられない。喩えるなら、誰も神を何かと較べたりしない。そうだろ?」
貨物車が車線を超え、徐々にこちらに向かって来た。
「まさか......運転手にはこちらが道に見えているのか!?」
その瞬間、周りの景色が揺らいだ。谷崎は『細雪』によって自分達のいる場所が道路であるであると運転者に錯覚させていた。そして、何も知らない運転手はスピードを落とす事なく、真っ直ぐアクセルを踏んでいた。
「それがナオミの為なら、僕は喜んで世界を焼く」
ガッシャーン!
その瞬間、四人の元に貨物車が突っ込んだ。
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トキハル(プロフ) - 長らくお待たせしましたm(_ _)m 更新始めていきます。 (2020年3月4日 15時) (レス) id: a4508594ec (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:トキハル | 作成日時:2020年3月4日 14時