【文スト】夜明けの死神第六幕 (ページ20)

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第百十六話【大切なもの】ページ20

それから守勢と「丙」である私は旧晩香堂に残り、攻勢の「甲」「乙」班は外へ出た。

私の体には緊張感が走っていた。敵は何処から攻めてくるか判らない。敵の数も武力も予知の仕様がない。そんな状況下で過ごす時間はいつも以上に長く感じた。

私は無意識に腰の鞘から小刀を取り出し、それに視線を落とした。小刀は先日の戦闘で折れ、刃物としての機能を果たさない状態だった。直しようの無い物だと理解していた。

私は長い間、この小刀を振るい続けていた為に愛着があったのかもしれない。しかし、これは何よりも父の形見だった。大切な物でも何時か壊れてしまう。例え刃折れでありどんな姿でなったとしても、大切な物に違いはなかった。しかし、直せないという現実に目を向けると憂鬱さが襲い、私は息を深く吐いた。

「A」

誰かが私の名を呼び掛け、私は顔を上げた。

声を掛けたのは福沢だった。私は椅子から立ち上がり、福沢を見た。

「その刀は如何した......」

福沢は折れた小刀を見て訊いた。

「先日、組合との戦闘で刃が折れてしまいました。きっと直すのは難しいでしょうね」

「そうか......」

福沢は何かを考えるように目を閉じた。そして、暫くして福沢の目が開いた。

「しかし、無理はするな」

福沢は私の頭に手を置くと、その場を立ち去った。

私はもう一度小刀目を向けた後、鞘に戻した。そして、監視カメラの映像を見る為に中央の机に移動した。

映像は何も変わらないまま、ただ時間だけが過ぎていった。

私が何気なく監視カメラに異常が無いかと見ていると、突然ある一台の監視カメラがプツンッと画面が真っ暗になり何も映さなくなった。直ぐに起動電源を入れるが、状況に変わりはなかった。

(もしかして、電源が短絡(ショート)したのかな？)

私は原因が分からず首を傾げた。取り敢えず様子を見に行ってみようと私は旧晩香堂の出口へと向かった。

「あれ？何処に行くんだい？」

私が旧晩香堂から出て行く様子を見て与謝野が声を掛けた。

「六番の監視カメラが何も映さなくなってしまったので、少し様子を見てきます」

「なら、一人じゃ危ないだろ？妾も行こうか？」

まだ幸い、自動機関銃が使用された形跡もなく、誰かが侵入して来た形跡も低い。見てくるだけなら問題ない筈だ。

「いえ、様子を見てくるだけなので、大丈夫ですよ。では、行ってきます」

私はそう言って、扉を出た。