露草のかほり 【フリーアートシリーズ】

45　弥生 ページ45

私は小さな勉強机に座って漫画の続編を書いていた。勿論、海の見える山口の実家でだ。お腹と太ももが机でつっかえて仕方ないけれど、今はとても幸せだ。




　私は“骨髄変性症と戦う漫画家”としてデビューをし、色んな人からファンレターを貰ったり、治療方法を教えてもらったりの日々だ。




　漫画のストーリーは、真夏の７月28日に生まれた少女が恋をする物語だ。７月28日、私が捨てられた日、そして誕生花は露草。




　露草は別名、藍草、月草、蛍草とも言うらしい。それに従って１，２，３と章を分けお話を作っていっている。今は月編を書いていて、ミステリアスな感じでと編集者から頼まれている。




　歴史上の人物達もこの露草で短歌を詠むほどの立派な花だ。そこに加わる私が、今ふたつの生命を持っていることに感謝して生きている。




　「すみませーん。橋本 百合華先生の原稿をチェックしに来ましたーぁ。ニッキーですー」
　「百合華ーぁ、出版社の人だよー」
　「今ちょっと無理ー」



　「いやー、山口は東京から遠いっスよー。死んでしまうかと思いましたよ」




　瑛大は弟の大学試験の勉強を教えにちょこちょこ来てくれている。私の病気が進行したり回復したりで心配になって駆けつけてくれる時もあり、仕事を辞めようとしていたこともあった。




　だが、辞めないでくれと懇願され、遊び感覚で良いからと会社にもちょこちょこと出勤しているらしい。瑛大は離れ島に探索するのがやっぱり辞められなくて、船に乗って何処か遠くへ行ってしまう時もある。




　でも――、この関係で良いのかもしれない。





　◆END◆

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