コイノウタ ページ2
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【われても末にあはむとぞ思ふ】×編
フランスに来て4年。
日本でお世話になったケーキ屋の主人が切磋琢磨した仲間だと言うルイを紹介して貰い、修行の日々。
休みの日は、将企くんが好きだった絵を見る為に美術館巡りをするのが何よりの癒し。
もう私のこと、忘れちゃったかな
なんて思いながら握りしめるのは、お守り代わりの1枚の札。
[ われても末にあはむとぞ思ふ ]
フランスに来る前、実家で幼い頃によく遊んだ百人一首をした時にピンと来た和歌。
「これ、持ってってもいい?」
岩にぶつかって別れてもまた会う水みたいに、また将企くんに出会いたい。
この札を持っていたら、出会えそうな気がした。
「クッキー美味しいかったよ」
「ありがとうございます」
フランスから帰国して夢だった自分のお店を構えることが出来た。
「8年か、、」
沢山握りしめてボロボロになってしまったけど、寂しさや辛さを共にした大切な私のお守り。
今日もポケットに入れてお店に立つ。
「質問するのでそれに答えて頂くだけで大丈夫です」
小さな私のお店に取材で芸人さんが来ることになった。
「カメラ回します!」
「「こんにちは」」
「いらっしゃいませ、、っ!」
思わずポケットのお守りを握りしめた。
将企、くん
驚いた表情をしたけどすぐに戻った将企くん。笑顔が懐かしくて泣きそうになった。
「キラキラしとる」
「ショーケースが宝箱みたいですねぇ」
「大好きな人に宝物だって言われたので、キラキラしたお菓子を作ろうと思って」
「素敵なエピソード!」
その本人と目があう。
「この絵、、」
将企くんがショーケースの上に飾ってあるハガキサイズの絵を見つける。
いつだったか、、
私が作ったケーキの写真を見ながら描いてくれた。
「私が初めて作ったケーキの絵です」
無事に取材が終わって、スタッフさんが片付けをするなか
「A、」
この声に名前を呼ばれるの、大好きだった。
その気持ちが溢れ出て鼻の奥がツーンとする。
「夢、叶えたんやな」
「おかげ様で」
ショーケースごしに私の耳元に口を寄せ
「Aは今も俺の宝物やで」
あの時みたいに頭に温かい手が乗った。
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作者名:裕 | 作成日時:2021年9月5日 15時