シアトリカルな彼女 2【H×H】

3章18話　使用人の危機感 ページ18

*


　この事実からして見ても、やはりAお嬢様の才能が伺える

　他の多くの使用人達が特に常日頃言っているのが、

｢Aお嬢様の演技は凄い｣

　ということ。

　これに関しては勿論同意なのだが、前に一度私は、このままAお嬢様が演技を続けられる事に関して、危機感を抱いた事がある。



　──それは、とある舞台が終わったある日の事。

　その日お嬢様が演じられた役は、


｢殺人事件を次々起こす悪い幽霊｣


　の役だった。

　劇のご様子を見ていても、本当に彼女が死んでいるのでは、本当にたった今、人を殺してきたのではないか、と見紛うレベル。

　そんな演技を見せたAお嬢様は、劇が終わるとふらりと私の元へやってきた。

　そして、生気のない顔でこう言ったのだ。


｢私、いきてる？｣


　──と。

　子供の冗談だ、と言われればそれまでかもしれない。

　でも私には、お嬢様が、“分からなくなっている”ように感じた。

　自分が生きているのか、自分が死んでいるのか。自分がAなのか、自分が殺人幽霊なのか。


｢私ね、最近よく、役から戻れなくなるのよ。それがすごく怖い｣


　また別のとき、遠くを見ながら呟いたAお嬢様の横顔が、すごく大人びていて、しかし、泣きそうな子供のような印象もあった事を、今でも覚えている。

　しかし、その表情をハッキリと思い出すことはできない。


*

2章19話　お嬢様のご報告→←3章17話　仕える女の手記

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す