夜風の関係 ページ21
Aside
·
『沖田さん、サボり魔ですよね…』
「至って真面目でさァ」
風が、川の表面を撫ぜていく。
いつかの
沖田さんも同じことを思い出したのか、くすりと笑いをこぼす。
『奇行に走ってましたね、私』
あの時は、ただ必死だった。目の前にいる彼と、自分を救いたくて。まとわりつくような何かを振り払いたくて。
やってよかったとは、思うけど。奇行だった。
「いや、まあ」
遠くで喧騒が聞こえる。お祭りの冷めていない興奮が、ここまで伝わってくるよう。
「奇行だけど。あん時、Aさんに、助けられたんで」
沖田さんはゆるく首を振る。
…自分のどこかが酷く熱を持った気がする。
彼が好きだと気づいてしまってから、この熱は短時間で募るばかりだ。
「だから、ありがとうございやした」
にこり、と。
沖田さんは、これまた綺麗な笑顔を見せた。
ああ、ちゃんと自覚しただけで、こんなに意識してしまうものなのか。じわじわと、波のようなものが背中をのぼる。
『い、いえ。…そう思ってくれたなら、嬉しいです』
宥めるのにいっぱいいっぱいだ。
世の中の女子はみんなこんな感情を抱いているのだろうか。なんて凄まじい。
彼の言葉や行動や、表情が、こんなに自分を揺らすものだとは思ってなかった。
これが、恋、なんだ。はあ、とため息をつきたくもなってしまう。
『…沖田さんも、お祭り、楽しめました?』
仕事があったとはいえ、雰囲気を楽しむことは出来ただろうか。花火を、味わうことは出来たかな。ふと気になって、私は沖田さんに聞いてみる。
「毎年出てますけど、楽しめやした。今年も」
風が、私たちの間を通り抜ける。
拳ひとつ分くらい、絶妙に離れた距離を。
『よかったですね。来年も来れたらいいなあ』
来年。
一年後の自分がどうなってるかなんて皆目検討もつかなくて、私と沖田さんがまだ一緒にいるかどうかも分からない。私が、この感情をどうするかも。
でも。
次の年も、沖田さんの隣で花火を見られたら。
沖田さんの笑顔が、隣で見られたら。
それは、すごく素晴らしいことだと思うのだ。
「来年、か」
そのニュアンスが沖田さんに伝わっているかどうかは分からない。
ほとんど星の見えない夜空。さっきまで花火が咲いていた空。
沖田さんは、そこに顔を向ける。
「ですね。また、次の年も」
『はい』
心地よい風が、ふわりとまた私達を包む。
私も夜空を見つめながら、来年を願った。
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みるくれーぷあいす(プロフ) - 麗桜さん» ありがとうございます。 (2019年10月25日 23時) (レス) id: 147ef4680d (このIDを非表示/違反報告)
麗桜 - と〜っても面白いです!更新頑張ってください! (2019年10月25日 19時) (レス) id: a174017b38 (このIDを非表示/違反報告)
みるくれーぷあいす(プロフ) - 麗桜さん» ありがとうございます!嬉しい限りです。マイペースな更新ですが、これからもよろしくお願いします! (2019年10月19日 18時) (レス) id: 147ef4680d (このIDを非表示/違反報告)
麗桜 - とっても面白いです!無理矢理原作に沿っていなくて,とても読みやすいです!更新頑張ってください! (2019年10月19日 16時) (レス) id: a174017b38 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:みるくれーぷあいす | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/ykoma1218/
作成日時:2019年8月25日 22時