4 ページ21
土方side
·
「うわっ…え、トシ!?」
咄嗟に彼の乗っている自転車の後ろ部分をつかんだせいか、自転車のバランスが崩れそうになる。近藤さんはブレーキを踏み、後ろを振り返った。
「何やってるんだ、危ないよ」
返事をしようとしたが、走って息切れを起こしているため、出来ない。
近藤さんは眉をひそめて、前に向き直った──その途端。
前方の工事現場。白いフェンスで囲まれた、建設中のビルから、黒く細い何かが降ってきた。
ガアン!と音を立て、地面に転がる。
「鉄骨だ…」
俺はようやく言葉を発することが出来た。
自転車から手を離し、息をつく。
もし今自転車を止めなかったら、数秒後彼が通っていたであろう場所だ。
…また近藤さんを、助けられたらしい。
***
真夜中、十二時。
ベッドの上で寝返りを打つ。二度も不思議な体験をした興奮からか、全然寝付けない。
公園を使って、昨日に遡った。そして、近藤さんを助けた。
…全力疾走しすぎて、若干足が痛い。
寝られるまで音楽でも聞くかと、スマートフォンに手を伸ばした、瞬間。
「…嘘だろ」
着信音、暗闇の中光るスマホ。【沖田ミツバ】。
背筋に氷を当てられたような気分になる。
《大変っ…!近藤さんが!》
ああ、と声を漏らしそうになった。
《近藤さんが、亡くなったって…!テレビで、やってるの!》
俺は部屋の壁に立てかけてあるテレビのスイッチを入れた。
深夜のニュース番組。女性アナウンサーが、生真面目な顔で話している。
《繰り返します。今日二十時頃、△△県○○市の酒屋に強盗が押し入り、酒屋の長男と次女が刺し殺された状態で発見されました》
犯人は行方不明、警察は捜査中。
現場の写真が映し出される。被害にあった酒屋として紹介されていたのは、間違いなく、近藤さんの家だった。そして近藤さんは、酒屋の長男。
俺は煌々と光るテレビの画面を、呆然と眺めていた。
***
深呼吸をして、ボールを拾う。
三度訪れた公園。転がってきた、近藤さんが使っていたボール。
「トシ、何やってるんだ?こっちこっち」
「…近藤さん」
顔を上げれば、ボールを求める近藤さん。
俺は唇を噛み締める。
三度目の正直だ。絶対助ける。
前回同様、キャッチボールをした後、近藤さんの家まで同行し、配達に出かけた彼の自転車を止め、石段での転倒と鉄骨での死を防ぐ。
「トシが止めてくれなかったら死んでたよ、助かった」
今度こそじゃあな、と近藤さんは工事現場から遠ざかっていく。
23人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
みるくれーぷあいす(プロフ) - ちぃなさん» ありがとうございます!これからも楽しんでいただけると嬉しいです。 (2019年10月30日 16時) (レス) id: 147ef4680d (このIDを非表示/違反報告)
ちぃな - ホラー好きなので嬉しいです!更新楽しみにしてます。 (2019年10月29日 14時) (レス) id: 43ae00df60 (このIDを非表示/違反報告)
みるくれーぷあいす(プロフ) - 綾葉メグさん» ありがとうございます!マイペースな更新ですが、これからもよろしくお願いします。 (2019年10月27日 17時) (レス) id: 147ef4680d (このIDを非表示/違反報告)
綾葉メグ(プロフ) - 面白いです!更新楽しみにしてます! (2019年10月27日 15時) (レス) id: fe3feae032 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:みるくれーぷあいす | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/ykoma1218/
作成日時:2019年10月15日 1時