｢こんにちは、もう一人の私｣

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廊下は、わいわいと煩い。雨のせいで、皆退屈なのだろう。

私は恋バナをして騒いでいる女子や、廊下を走り回っている男子を横目で睨み、ドアに手をかける。

教室も、少し騒がしかった。
女子達は二、三名のグループになって雑談をし、男子は今日の提出物を慌てて写している。
しかしいつも騒いでいるような奴らは、廊下にいるのか見当たらない。
まあ、有難いことだ。

私が入ってくると、数人がこちらを冷たい目でちらっと見た。
いつもの事なのに、朝、いつも以上に自分に自信をなくしたせいか、酷く惨めな気持ちになった。

雨が小さく窓を叩く音を聴きながら、席に着く。
私の席は窓際だ。晴れの日はぽかぽかと暖かい……もっとも、最近は太陽が顔を出すことがめったにないのだから、意味など無いのだけれど。

窓を開けて、思い切り息を吸い込む。

……雨の匂い。私はこの匂いが好きだ。

土が湿った匂いなのか、葉の匂いなのか、何かは分からない。
自然の匂い。
この匂いを嗅いでいると、落ち着く。
他のことも全て忘れられる。

数分間そうしていただろうか。
チャイムが鳴り、私は慌てて窓を閉め席に着いた。

とうとう、始まる。


｢ああ、もお雨ってほんと退屈ー｣
教室でただ一人大声で叫ぶ女子、浜田紗奈江。
うちの女子クラス委員。
彼女は少し巻いた髪を指でくるくると弄びながら遠くの席にいる友達達と会話を始めた。
雨だと髪がどうとか、なんとか。

大きな話し声が嫌でも聞えてきて、思わず顔をしかめる。

私は別に、この子に何かされた訳でもない。
ほとんど接点もない。むしろ最後に会話した事の記憶すらない。

なのに私は、この子が気に入らない。

この子が私と違って、煩いタイプだから？
空気を読まないから？
男子に媚を売るから？

“スクールカースト”が違うから？

分からない。

どれもしっくりくる様な気もするし、何か違うような気もする。
こんななんとなく人を嫌うなんて、どうかしていると自分でも思う。




私は、浜田紗奈江が気に入らない。



これは今までも、

これからもずっと、

変わらない。

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