｢こんにちは、もう一人の私｣

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あっ……

全員の、息を呑む音が聞こえた気がした。
ゆっくりと弧を描き落ちてゆくボール。
色々な言葉が混ざりすぎて、もう頭は真っ白だ。

すると、
｢ミウ、こっち！｣
部長の声が聞こえて。
ボールは私の頭上をゆっくりと越えていく。
ああそうか美羽先輩がリバウンドを……
そして部長に渡ったボールは、あっさりと反対側のゴールに入った。

呆然と立ち尽くす私を残して、試合終了のブザーが鳴った。

｢なんだ、結局何にもしてないじゃん｣
｢二年のくせに出て足でまといだね｣
ふと、ひびき先輩と他の先輩の怒り、もしくは侮辱……の声が聞こえた。

＊＊＊＊

｢はあ｣
私の大きなため息は放課後のざわめきにかき消された。
体育館に向かい、のろのろと廊下を歩く。今日は一段と荷物が重く感じる。
下駄箱を通り過ぎると人通りは少なくなった。
静まり返った校舎内に響く、私の足音。

すると急に、私以外の足音が聞こえてきた。少し大きめの足音は、どんどんこちらへ近づいてくる。
｢佐藤さん｣
高めのよく通る声が、真後ろでした。
この声は。
｢高木先生｣
振り返ると、愛想笑いをした先生がいた。

彼は何の前置きもなしに｢今から特活室に来てください｣と言い残し、特活室とは反対側……職員室の方へ歩き出した。
私は先に行けということだろうか？
｢えっと、あの、私……は｣
私の戸惑いに気づいたのか、先生はこちらを振り返り｢私は書類を取ってくるので、また後ほど｣と言った。
先生の足音が小さくなって、やがて向こう側に消えた。

特活室とは、特別活動室の略だ。よく部活動のミーティングに使われる。我がバスケ部も何度かお世話になった場所だ。長机四つに椅子が幾つか、そして前にはホワイトボードがある。まさに話し合いにうってつけだ。
しかし、先生は何の為に私を？
首をかしげながら、私も歩き始めた。

＊＊＊＊

｢失礼します……｣
特活室の扉を開くと、中にいた数名が一斉にこちらを見た。室内は本当に静かで、時が止まっているようだ。微かな足音でさえ大きく聞こえる。

｢ああ、来ましたね。こちらにどうぞ｣
先生は遅かったですねという目でこちらを見て……ん？ 先生、書類取りに行ったんじゃ？ しかし、彼の手元を見るとしっかりとプリントの束が握られている。特活室への道は私が通った道が一番近いはず。職員室へ寄ってから私より先に来るなんて、出来るのだろうか。

次から次へと出てくる疑問に対処出来ず、とりあえず指定された席へと腰を下ろした。

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