【ヒプノシスマイク】這いつくばってろ【山田三郎】

考 ページ10

目を開けると時計は10時20分を指し示していた。


｢あっ寝坊した｣


昨日山田一郎と別れてから家に入ると、珍しく母が怒っていた。


『もういい加減にしなさい、あなたは受験生なのよ、一体いつまでこんな時間までふらふらしているの？

近所のあの子はあの偏差値の高い高校を受験するそうよ、あなたは？

あなたはどうするのよ？

ねぇ、ちゃんと考えてるの？』


そう言われた私は母に感情のまま怒鳴り散らしてそのまま部屋に入って、少し泣いた後寝てしまった。


考えてるよ、考えてる。私だって考えてる、私なりに考えてるんだよ。考えてるけど……。


制服を脱ぎ捨てて風呂場に行く。冷水を浴びる。


きっと昨日担任から連絡がいったんだ。私が面談をバックれたことも、未だに志望校を確定させていないことも、成績が著しく低下しているのも。


電話口で顔なんか見えやしないのに母が頭を下げながら謝っているのが想像出来る。


あぁ、もううるさいなあ、わかってるんだよ。


鏡を見ると酷い顔をした女が写っていた。なんて醜い女だろう。


私が顔を歪めれば鏡の女も同じように顔を歪める。


｢……｣


……


学校に着くと早速担任に職員室まで呼び出された。


｢A、何で昨日面談来なかったんだ？先生待っていたんだぞ。それに夜親御さんに電話してもまだ帰ってきていないと言っていたし……何か悩みでもあるのか？｣

｢……別に何も無いです。すみませんでした、次は面談出ますから｣

｢今日も遅刻してきているし、何かあるなら……｣

｢本当に何も無いんで。今日は寝坊しました、すみませんでした｣


……何か悩みがあったところで私はお前には相談なんかしてやんない。そもそも誰にだって言わない。


結局今日の放課後に改めて面談をすることになった。


教室に戻ると山田くんが心配そうに私を見る。


珍しい表情に嬉しくなる。


｢何〜？山田くん私が朝から居なくて寂しかったのー？｣

｢違っ、そんなんじゃなくて……ただ、昨日引き止めたの、嫌だったのかなって……思って｣


私は驚きの顔を隠せず、そして口許が緩くなる。


｢まさか。とっても楽しかった。ありがとう、あんなにご飯が美味しいなんて思ったことないの｣

｢そう、か。なら良かった。また食べたくなったらいつでもおいでよ｣


山田くんは照れくさそうに小さな声で言う。


その言葉が嬉しくて嬉しくて、たまらなかった。


少し涙が滲んだのは内緒。

僕の友達→←矛盾を抱えた眼

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す