陰翳の果実 最終楽章

消えた影【紫】 ページ39

「ソラー？」




「ソラ、どこー？」



…夜、あまり眠れないから


私はさっき、ついソファで眠ってしまって



目が覚めたら暗くて



今が朝なのか夜なのかすら分からなくなる



ソファから半分毛布がずり落ちていて



肩が冷えて、喉が痛かった



…しん、としていて




ああ、ソラにご飯をあげなきゃと



台所にだけ電気をつけて、私は缶詰の蓋を開ける



「ーー…」




…減って、ない



お皿を見たら、そこには半乾きのご飯が燻んだ色に変わっていて



そういえば、私が台所に来ても寄ってもこない…




「ソラ…？」



どこかで、眠っているのだろうかとーー…



彼女の好きな、ソファの陰とか、コート掛けの下に隠れて丸くなっているのかと



「ソラー？」



…捜す



「どこー？」



…だんだん



不安になる



扉の陰


ソファの下



私は震えながらその姿を捜す



「ご飯だよー？」



…生き物の



気配がなくて


時計の秒針の音だけが脳に響く




「ソラー！」



…怖い



あのふわふわとした…



にゃあんと小さく鳴く愛しい生き物がーー…



「ソラ！ どこ！」




怖いーー…



ーー…その時



けたたましく電子音が響く


その衝撃に私の心臓は跳ねる



…電話


信ちゃん…




「ーー…」



私はソファの下に落としていたスマホを拾い上げる、表示される無機質な番号

…知らない


「やだ…」




やだ



なんでソラはいないの、誰が連れて行ったの私のソラ



鳴り止まない音が私の脳を揺さぶる


スマホを落とす


フローリングの上でガタガタと震えながら追い詰めるように響き続けるーー…


…ああ


「ーー…っ、」




信ちゃんにもらった薬飲まなきゃーー…




…









「…A！」









「どないしたん！」









「…信ちゃん…？」



「大丈夫かお前…」



「信ちゃん、ソラがいないの」



「え…？」




「どこにもいないの、誰かが連れてっちゃったのかもしれない、さっき知らない番号から電話があったのどうしようーー…」



「落ち着け、今日検診やから俺が病院連れてくて朝言うたろ」



ーー…




「…ほんと…？」


「嘘ついてどないすんねん、ほれ」



…ああ




ソラーー…




…彼が



玄関にまた戻って、キャリーを持ってくる


その中には…



「…ごめんね、お腹減ったよね」


にゃあ、と不機嫌そうに鳴く彼女を



抱きしめながら、私はぼろぼろと泣いていたーー…

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