完璧な聖夜【紫】 ページ32
「…ん」
…彼は俯いた私の頭をぽんぽん、と撫でて
私が空にしたお猪口に日本酒を注ぐ
自分のお猪口もグッと飲み干して、そこにも同じだけの
美しい、透明なお酒を注いだ
「…ほれ、乾杯やろ」
「…何に」
「んー？ せやなあ」
“サッカーと宮沢賢治にやろ”
“あー、あとあの公園にもやな”
カウンターについた左肘
そこから伸びる左の指を一つずつ折り曲げながら
彼は杯を捧げる対象を挙げてゆく
“お前が貧血持ちで俺が医者やったことやろ”
“あとなんやろなあ、あ、お前の足がえらい遅かったことやろ”
時々思い出したように歯を見せて笑い
…それから少しだけ何かを考えたように黙って
“…色々あって大変やったからこそ俺と会ったんやもんなあお前は”
“…やからまあ、お前が生きてきた全部に、やな”
…完璧な、聖夜だった
シャンパンも鶏の丸焼きもケーキも賛美歌も何もないけれどここには
日本酒と焼き鳥と気取らない大将がお客さんに掛ける声と
彼が、いた
“お前が生きてきた全部に”
喧騒に掻き消されそうなほど小さく呟かれた、
それは、祝福ーー…
「…そろそろ行こか」
飲み干したお猪口をとん、と置き
私のあげた腕時計を見て彼が言う
私は、俯いたまま“うん”と答える
痺れたように 胸がいっぱいだったから
鼻を一度だけすん、と啜った
「…ちょっとお手洗い行ってから行くね」
「おん、先に会計しとるわ」
「うん、あ、ちゃんと二人のお財布で払ってね」
「はは、今日ぐらい奢ったるのに」
ーー…
「…信ちゃん？ どうしたの？」
戻ると
「ん…いや…」
レジの所で彼が何やら店員さんと話し込んでいて
その雰囲気に戸惑い、声を掛ける
「村上様宛にお代お預かりしておりまして…お連れ様もお心当たりございませんか？」
「…どういうことですか？」
…レジに示されたお会計は、18940円
「いや…今朝店のポストに、本日ご予約の村上様のお代にとこちらのお手紙と2万円が入っておりまして…」
…ワードで打ち込まれたテキストが無愛想に印字されたA４の白い紙
「あと、こちらのカードも…」
「ーー…」
…見慣れた、白い封筒
開くと
“メリークリスマス”
子どもの工作のような、切り絵のサンタクロースの横にクレヨンで書かれた文字ーー…
完璧な聖夜が ぱりんと
笑う誰かに踏み躙られる音が聞こえた
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たまご(プロフ) - okmrernさん» あ、なんか途中で送信しちゃったごめんなさい…！引き続きよろしくお願いします！ (2020年6月2日 17時) (
レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - okmrernさん» okmrernさま、お久しぶりですありがとうございます！ここまでされても私はこの村上信五とつきあいたい (2020年6月2日 17時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - ブルームーンさん» ブルームーンさま、お久しぶりですありがとうございます！ラスボスは一番そばにいるということでひとつ…！ (2020年6月2日 17時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - ぐふ。さん» ぐふ。さま、初めてのコメントうれしいですー！！信五最強説です…！そしてビリヤード！素敵ですねそれ…ただ友達がいる設定にしてしまったなあの店員さん…… (2020年6月2日 17時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - ゆき姉さん» ゆきえさん！コメントありがとうございます嬉しい！ほんとしんどい話でごめんなさいね…いつもありがとうございます！ (2020年6月2日 17時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：たまご
| 作成日時：2019年8月18日 23時
