4分間の楔【黒】 ページ13
「…A、お客さん来てるよ」
…季節は、10月になっていた。
その日も公園で読書をして夕方帰宅すると、迎えた母親が玄関先、小声で私に伝える
「…誰?」
…私を訪ねてくる人なんてもう誰もいない筈だった
友達なんて忠義くらいしかいなかった私は
考えながらリビングに歩みを進めると
ダイニングの椅子に姿勢良く座り、出された麦茶を飲んでいたのは
「…お邪魔してます」
「…横山、さん…?」
“A、私あっちで洗濯物畳んでるから”
気を利かせたようにお母さんが声をかけ部屋から去って
…どうしてこの人がーー…
「…久しぶりやな。…元気?」
「…はい、あの、どうして…」
「…ごめん、家まで押し掛けて。マルのことやねんけど…」
ーーああ、やっぱり
「…隆平さん、見つかったんですか…?」
…どこに
彼は無事なのかと
私は手に持っていた本をテーブルに置き慌てて彼の正面に座りーー…
「…いや、ごめん、見つかってへん」
「…そうですか」
「…あの家な、もうじいちゃんもおらへんし、マルが行方不明になってもうたから、どうすんのかって問題になっとるらしくて」
「…」
「…やっぱりAちゃんのとこにも、連絡あらへんよな」
「…はい」
…それ以上 紡ぐべき言葉がなくて
空気が
ずん、と沈んでいく
襖の向こうでお母さんが静かに会話を聞いている気配がする…
「…Aちゃん、俺がこんなこと言うんもアレやねんけど」
「…」
「…マルのこと、忘れんといてやってくれへんかな」
「…」
「…俺はずっと捜し続けるつもりやけど、Aちゃんにもマルのこと待っといてほしいねん」
「…」
「…頼む」
ーー横山さんは、綺麗な姿勢のまま、腰を折るようにしてその場で頭を下げた。
…僅か4分程の滞在だった、彼は私の返事も聞かずに“突然ごめんな”と言って立ち上がり
玄関先で想い出したように “火事の日のあの男、大丈夫やった…?”と尋ねた。
私は曖昧に頷いて、その後ろ姿を見送る
その凛とした背中を…
…この人の隆平さんへの愛情は、本物なのだろうーー…
きっと今でも毎日、こうして彼は消えたあの人を捜し続けていて
…それに比べて私は
“Aちゃんにもマルのこと待っといてほしいねん”
“頼む”
その言葉が楔となって私の心臓に打ち込まれるーー…
…リビングに戻り私はテーブルの上に置いていた本をゴミ箱へと捨てた。
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たまご(プロフ) - okmrernさん» あ、なんか途中で送信しちゃったごめんなさい…!引き続きよろしくお願いします! (2020年6月2日 17時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - okmrernさん» okmrernさま、お久しぶりですありがとうございます!ここまでされても私はこの村上信五とつきあいたい (2020年6月2日 17時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - ブルームーンさん» ブルームーンさま、お久しぶりですありがとうございます!ラスボスは一番そばにいるということでひとつ…! (2020年6月2日 17時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - ぐふ。さん» ぐふ。さま、初めてのコメントうれしいですー!!信五最強説です…!そしてビリヤード!素敵ですねそれ…ただ友達がいる設定にしてしまったなあの店員さん…… (2020年6月2日 17時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - ゆき姉さん» ゆきえさん!コメントありがとうございます嬉しい!ほんとしんどい話でごめんなさいね…いつもありがとうございます! (2020年6月2日 17時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:たまご | 作成日時:2019年8月18日 23時