波間にゆれる子どもたち【青】

中学生の初恋 ページ12

章ちゃんと初めて会ったのは、私がまだ中学生の頃だった。


水泳部の部活帰りに実家の民宿のロビーに立ち寄ると、うちには珍しく、団体のお客さんがいた。


「おー、JCじゃん、かわいいね〜、ここんちの子？」

なんて、大人のおじさんにからかわれ、どうしていいか戸惑っていた私は、


「ほらツヨシさん早くー、僕と同じ部屋ですよ〜、間違いが起こったらすんませんね〜」

「章ちゃんとなら…俺受け入れるよ！」

「ほんまですか〜？」


なんて冗談めかした会話をしながら、そのおじさんを連れて行ってくれたお兄さんが、

去り際に振り返り、口パクで「ごめんね」と言ったその姿を見た瞬間、


心臓が、速く鳴るのを感じた。



その人はみんなから「章ちゃん」と呼ばれ かわいがられていて、
いつもみんなの中心にいて、それでいながら私や家族へのさり気ない気配りも忘れず、


誰かがロビーに置き忘れた空き缶をそっと回収して捨ててくれたり、
当時飼っていた老犬の正太に、「僕と同じ名前やんなあ」とひとりで話しかけている姿を見かけたり、


私は彼の滞在している期間、何かと理由をつけて民宿内をうろうろとしていて、
母親に「あんた何してんの」と言われ 焦ったことをよく覚えている。



その頃の私はテレビなんてほとんど観ていなかったから、
その人が東京に住む有名人で、たくさんの人に愛されているなんて知るはずもなく、

それから何度も「章ちゃん」はうちの宿を訪れ、
私もすっかり顔なじみになり、


「章ちゃん 今日は海どうだった？」

「おー、きれいやったでー、Aちゃんは部活どやった？」


なんて、気軽に話せるくらい仲良くなったあとに、
同級生が学校に持ってきていたアイドル雑誌を見て、衝撃を受けることとなる。



家に帰って慌てて両親にそれを伝えたら、
「お客さんをそんなふうな目で見たら失礼でしょ」とたしなめられ、


とっくに自分の親は知っていたことと、
自分の浅はかなミーハーさに気がつき恥ずかしくなり、


でもこっそりと、友達からもらった切り抜きを集めたり、
レンタルしたCDを取り込んで何度も聴いたり、


そんな生活がしばらく続いていた。

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