そして、雪が降る【赤と青】２

幸せな食卓【赤】 ページ40

「…材料、ないよ？」

「買うてくればええやろ、そこんスーパー、開いとったで」


「…何鍋？」

「あったかいやつ」


鍋は 大体あったかいよ、と笑いながら返し、私はスーパーへ買い物へ出ようとする。

あ、と気づき引き返して、キッチンの戸棚を探す。


「…はいコレ。ちょっと待っててね」

「…おう」


飲み口からすぐに灰がこぼれる、使い勝手の悪い、缶コーヒーの灰皿。



最近はすっかり値段の高騰している野菜と、豆腐と、鶏肉と。
目に付くものを、次々とカゴに放り投げてゆく。

嫌がらせにキノコを買って帰ろうかと手に取り、また棚に戻す。



部屋に戻って、お正月恒例のお笑い番組をソファで横になりながら観ている彼を尻目に、
材料をざくざくと切る。



「ちょっとー、お鍋、棚の一番上にしまっちゃったから、取ってくれないー？」

「あー？」


のそのそと彼がやってくる。


「あ…届かないか」

「…うっさいわ」


仕方なく、ダイニングの椅子を踏み台代わりにする。


久しぶりに、日の目を見た土鍋。

キッチンで火にかけてから、テーブルにカセットコンロを設置して、移動する。


「できたよー」

彼はテレビから目を離さぬまま、こちらにやってきた。


私たちはお酒片手に一緒に鍋をつつきながら、昨今のお笑いコンビについて、あれこれと論評する。



「あー、昼から酒飲んで、正月って感じやなー」

「昼から鍋食べてる人はあんまりいないと思うけどね。締めは？ どうする？」

「んー、ハラいっぱいやから、ええわ」




窓からは、冬の日差しが柔らかく差し込んでいる。

私たちは幸せな満腹感に浸り、身体をゆるめる。



そしてーーー



私はその時、

彼がこれから何を言おうとしているのか、

きちんと理解していた。





「ーーー俺ら、別れるか」

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