初恋ごっこ【橙】８ ページ35
「ふふ…」
「ん、どないしたん…？」
「いや、できすぎだなあって」
「何が…？」
「…ううん、なんでもない」
…また、いつか遠い未来に
彼がまた、すべてを忘れた頃に
こんなふうに語り合える日が来ることを、星空に小さく祈る。
背後で、私たちを地上に降ろすエレベーターがチン、と音を立て到着を告げたから
私は、なんだか今なら許される気がして…
鞄に手を入れ、隣に並んで不思議そうに夜景を見下ろす彼に、リップの下敷きになっていたそれをそっと差し出した。
「…ごめんね、気持ち悪いかもしれないんだけど」
戸惑いながら受け取る彼に…
私はあの神社でこっそりと幼い日の彼を見ていたこと、
そして引っ越す日にそれを拾ったことを告白する。
彼は黙って俯き
受け取ったままの手のひらの形で、その上に乗るねずみ色の石をただじっと見ていた。
「…誰にも届かない想いの象徴だった気がしてね」
「……」
「…なんだかずっと捨てられずにいたから、返せてよかった」
…私は、じっと動かない口元のほくろを見つめ
そんな勝手な思い入れを語りながら気づく
たぶんこれは同時に
私の、
伝えられなかった初恋の象徴だったーー…
「ーー…」
…ここは、暗いから
ガラス越しの夜景の瞬きが目に眩しくて
よかったね、きちんと本人に返すことができたと
…もうこれで、思い残すことはないでしょと未練がましい少女の私に言い聞かせ
エレベーターのほうへ、
振り返りかけた時ーー…
「…なあ」
「ん…？」
「…ひょっとして、の話、してもええかな」
「うん…？」
変わらず手の中の石から視線を外さないまま彼が
暗い照明が陰影を作り、
瞳の色が見えない…
「…ほら、僕仕事柄、“初恋の相手は”とか、よう聞かれるんやけどね」
「うん…」
「…正直、今まで適当に答えてたんよ、せやけどひょっとして」
「うん…」
「…僕ん初恋、Aさんやったりするんかな」
「ーー…」
「…どう想う？」
ーー…ふと視線だけをこちらへ向けて
伺うように覗き込んでくる、濡れた黒い瞳ーー…
「…初恋のやり直し、してもええかな」
…そして私たちは、
最上階から下るホテルのエレベーターへと乗り込んだーー…
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たまご(プロフ) - くりくりさん» くりくり様、お返事遅くなってごめんなさい！コメントありがとうございました！ラスト駆け足になってしまいましたが、少しでも気に入っていただけたなら幸せです。今後ともよろしくお願いします！ (2019年9月5日 4時) (
レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - まっきーさん» まっきー様、いつもありがとうございます！緑さんのお話、書いた当初は自信なかったんですが、今では結構好きなお話です。7人揃う日まで気長にお付き合い頂けると嬉しいです…！ (2019年9月5日 4時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
くりくり(プロフ) - 初恋ごっこ、読み終えて胸が苦しくて愛おしい気持ちが溢れて一言お伝えせずにいられなくなりました。更新が待ち遠しいです！ (2019年8月25日 15時) (レス) id: f2b0afbb33 (このIDを非表示/違反報告)
まっきー(プロフ) - どのお話も素敵でした！とくに大倉君のお話が堪らなく好きです(*´∇｀*)最高です！！お忙しいとは思いますが、更新楽しみに待っています！！ (2019年8月15日 20時) (レス) id: 76f56a80a0 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - ひよりんさん» ひよりんさん！コメントありがとうございます、まさかひよりんさんに読んでいただける&コメントまでいただけるとは思わず二度見しました…！うれしいですありがとうございます、今後とも何卒よろしくお願いします…｡ﾟ(ﾟ´ω`ﾟ)ﾟ｡ (2019年8月15日 16時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：たまご
| 作成日時：2018年4月30日 14時
