初恋ごっこ【橙】 ページ28
小学校は、3回
中学は2回転校した
お陰で私はそれなりの社交性と
人の顔と名前を手早く覚え、そして適度に忘れる術を覚え
“どないしよう…勢いつきすぎて”
“どうしたの?”
“彫刻刀、僕ガッてやってまったんよ、そしたら猫の足一本足りひんくなってまって…”
…そんな中で妙に印象に残っている子が居て
小学校6年生、同じ班の男の子、不器用なのはきっといつも少し焦りすぎる性格のせいで。
“ん…そしたらね、この前脚のほうも奥にある足をもう少し彫れば、立体感が出たように見えない?”
“…ほんまや”
“ほら、遠近法みたいな感じ…?”
…年の離れた弟の居た私は、つい出しゃばって世話を焼き過ぎてしまう
“…Aちゃんて、すごいんやなあ”
そう言って、真っ黒な瞳
その中にきらきらした一筋の光…
半ズボンから真っすぐに伸びた脛
膝小僧に絆創膏
笑うとできるえくぼ
“A”って、それまでの学校では苗字で呼ばれることが多くて
5年生の時転校してきたそこで、初めて男の子に名前で呼ばれたから
そのくすぐったさに、思わず俯く
私の彫ったオルゴールの箱の蓋には、大好きなスヌーピーが呑気に寝転んでいた
…
…ある夏の夕方 私はお母さんにお使いを頼まれ、近所のスーパーへ行く
ひとけの無い神社を抜けると、少しだけ近道で
悪い中学生のお姉さんやお兄さんが溜まっていたりするから
5時以降は一人で行ったらダメだよって言われていたのに
小さな山の中にぽっかりと開かれた境内を恐る恐る進むと
お姉さんやお兄さんの代わりに
…あの子が、居た。
「ーー…」
…何故だか声は、かけられなかった
私は息を潜め、鳥居の柱の影からその姿を見ていた
むわりと湿度の高い夕暮れ時の神社
彼は境内に敷き詰められたねずみ色の玉砂利を
ひとつ拾っては周囲を囲む林の中に思いっきり投げていて
…またひとつ拾って、投げる
その度に砂利をギュッと踏みしめる音
林の中に消えていくそれは行き先も見えずーー…
…イタズラと呼ぶにはあまりに無意味で
どれだけ拾っても、砂利の海は果てしなく
私の心臓はぎゅっと痛む
…笑っていてもどこか不安げだった彼の見てはいけない場面を見てしまったような
ああ、どうやら彼は見えない何かと戦っているのかもしれないと
ぶつける宛のない何かを抱えているのかもしれないと
…子どもながらにそんなふうに思ったことを
なんだか、忘れられずに居た。
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たまご(プロフ) - くりくりさん» くりくり様、お返事遅くなってごめんなさい!コメントありがとうございました!ラスト駆け足になってしまいましたが、少しでも気に入っていただけたなら幸せです。今後ともよろしくお願いします! (2019年9月5日 4時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - まっきーさん» まっきー様、いつもありがとうございます!緑さんのお話、書いた当初は自信なかったんですが、今では結構好きなお話です。7人揃う日まで気長にお付き合い頂けると嬉しいです…! (2019年9月5日 4時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
くりくり(プロフ) - 初恋ごっこ、読み終えて胸が苦しくて愛おしい気持ちが溢れて一言お伝えせずにいられなくなりました。更新が待ち遠しいです! (2019年8月25日 15時) (レス) id: f2b0afbb33 (このIDを非表示/違反報告)
まっきー(プロフ) - どのお話も素敵でした!とくに大倉君のお話が堪らなく好きです(*´∇`*)最高です!!お忙しいとは思いますが、更新楽しみに待っています!! (2019年8月15日 20時) (レス) id: 76f56a80a0 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - ひよりんさん» ひよりんさん!コメントありがとうございます、まさかひよりんさんに読んでいただける&コメントまでいただけるとは思わず二度見しました…!うれしいですありがとうございます、今後とも何卒よろしくお願いします…。゚(゚´ω`゚)゚。 (2019年8月15日 16時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:たまご | 作成日時:2018年4月30日 14時