短編／虹の雨あがり

隣の飼い猫【緑】２ ページ20

停止したエレベーターは静寂。


ボタンは彼の前にあって
その長い左の人差し指は「閉」ボタンを、ずっと押したままーー…




「ん」


彼がこっちを見て にやりと笑い、くちびるを突き出す…


「…なに…？」


「キスしたら開けたるわ」





ーー…



「…酔ってるの…？」


「見りゃわかるやろお？」


そう言って心底おかしそうに笑う、私は戸惑い言葉を無くす




…ただ押し黙っている私を見て

からかうのにも、飽きたのか。



仕方ないなあという顔をして彼がようやく「開」を押したーー…





……



降りて右側へ進んで、三つ目のドアが私の部屋で、

その先…突き当たりの角部屋が、彼が暮らす部屋。




「…じゃあ、おやすみなさい」

私は鍵を取り出し差し込む、回す、がちゃりと音がしてドアノブを…


ーー…




「…なに」


彼は私の背後でじっと立ち止まっていて




「…部屋、入れてくれへんの？」

「…無理…だよ」


「なんで」

「…わかるでしょ」



「…ほんなら叫ぶでここで。俺酔っとるからさー、ぎゃー変態ですう言うて叫んで人呼ぶけどええ？」

「何バカなことーー…」

「ぎゃーー


ーー…



がちゃん、叫び声がこだまする前に、無理矢理彼をーー…






さっきから一体何を考えているのかこの人はーー…


玄関、つけっぱなしだった電気の下。




「…おー、ヨルちゃん、久しぶりやなー」



彼は私に構うことなく足下にすり寄って来た黒猫に目尻を下げ、挨拶をした。

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