そして、雪が降る【赤と青】

清く正しい密会【Side青】 ページ21

こないだ、Aちゃんとカラオケ行って。

ちょっとからかったろかな、くらいの気持ちも正直あったけど、
僕が歌い始めたら慣れない手つきでタンバリン叩きだして。


リモコン渡しても頑に歌おうとせんから、仕方なくサービスのつもりで自分らの曲歌ったら、
しかもカップリングにしか入っとらん曲をね、

ふと横を盗み見たら、あの子の唇が、小さく歌詞を口ずさんでいた。



ああ、何回も何回も聴いてるんやろな。
渋やんに会えない日も歌聴いて我慢しとったりするんやろか。


健気っちゃ健気やけど、家ん中、渋やんのポスターだらけやったりして。


勢いで家まで押し掛けたら、全然、そんなことはなかった。

年相応の、居心地が良くて落ち着いた部屋。



写真の一枚どころか、缶コーヒーの灰皿も、大事に奥にしまい込まれて。

急に誰かが訪ねてきても、絶対にバレないような…そんな部屋。



なんや、ほんまにしっかりしとるやん、て、拍子抜けしてもーた。


…僕、こんなに意地悪やったっけなあ。

なんでこんなにツッコむ隙、探してしまうんやろ。



そんな自分に戸惑いながら、あの日の想い出話をちょっとして。


それで、おしまい、のはずやった。



渋やんには内緒の、一度きりの清く正しい密会。

……のはずやったのに。




あの時、Aちゃんが独り言みたいに、「幽霊でいい」なんてつぶやくから。



クーラーを効かせた部屋とはいえ、真夏の熱帯夜に、
体温さえも殺しとるような、
儚くて、今にも溶けて消えそうな雪みたいな、そんな気配を漂わせとるから。




帰り際、「じゃあ…ね」と、

たぶん「…」の間に「またね」って言うか迷って、

やっぱり言わなかったAちゃんの小さな声を聞いたら、


思わず「俺が聞いたる」なんていう、

頼まれてもないこと、口に出してた。

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