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たったひとつの恋1【黒】 ページ26

「…なんで俺に振ってくれるん? 自分のチャンスやのに」

一度、楽屋出たとこで出会した彼女に、そう聞いたことがあった。



「…別に。私はこの世界で売れたいと思ってないからかな」


「そうなん? ならなんでこんな仕事やっとるん?」


「…いいでしょ別に」


「…よくない」


「…どうして?」


「…俺が、興味あるねん」


通り過ぎようとする彼女の腕を俺は咄嗟に掴んどった。



「…うち、父親いなくて」


「ーー…」


「…弟 大学に行かせてあげたいから、それまで割りのいいバイトしてる感じかな」


「……」


「…それだけ」


彼女は手ぇ解いて、そう言って、俺んこと見ないまま立ち去った。



…家庭環境似とるんとか、まあ、この世界におったらありがちなことやし


やけどそん時の俺には、普段はけらけら笑っとるのに、俯いて廊下の隅っこ見てそう呟いた彼女のことを

…わかってやれるんは、何故だか世界で俺だけな気がして



「…ちょっと、自分の楽屋帰りなよ」


「ええやんまだ本番まで1時間あるんやし」


まだ色々ゆるい時代やったから、俺は毎回本番前の打ち合わせが終わると、彼女の楽屋へ押し入る。

彼女は…俺もやけど、ほとんどマネージャーなんかついてきとらんから、その密室で二人だけの時間を過ごす。


畳に寝っ転がって持っとったゲーム機で襲い来る敵を倒すふりをしながら

俺は短いスカートで壁に寄りかかって座っとる彼女んことを、ちらちらと伺ってばかりいた。



「…何読んどるん?」


「…世界史の参考書。ねえ、“カノッサの屈辱”ってなんのことか知ってた?」


「知らんよ。…なんか昔そんなTV番組あったよなあ」


高校を中退したという彼女は、“単なる趣味”でいつもなんかの勉強をしていた。



「何が楽しいん? 学校もないのに勉強するやつの気が知れんわ」


「…知らないことを知るのは楽しいよ。世界と戦っていけそうな気がする」


「…ふうん」


…そう言ってまた本に目を落とす彼女の横にずるずるにじり寄って座り


…こいつは、同じ空間におってもいっつも本ばかり読んどるから



「…なあ」


「…何」



「…ほんなら俺とキスしてみん?」


ーー…当時の俺にはそんくらいの向こう見ずさがあったし


顔をあげこちらを見た不意を突いて…



「ーー…」



ーー…一瞬 触れた唇



その柔らかい余韻に…



「…どやった? 知らんかったやろ」



余裕めかしながら、自分の心臓の音が耳の後ろから聴こえていたーー…

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ゆき姉(プロフ) - 年末年始と忙しくて気になっていたけど我慢してやっと、読めました!あここで名前が?って予想外だったので戸惑った笑ほんまのほんま、の感想は完結した時に。でもでもだけど。やっぱりたまごさんのかくeightが好きです。 (2021年1月7日 18時) (レス) id: f0721a3442 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - はるさん» はるさん、コメントありがとうございます、とても嬉しいです。ちょうど「CHANCE」が出たころっぽかったのでそのイメージでしたが、マドモアゼルココもいいですね!引き続き見守っていただけると嬉しいです。 (2020年12月17日 3時) (レス) id: 0669d21b3c (このIDを非表示/違反報告)
はる(プロフ) - 鳥肉なし、愛がたっぷりのオムライスがリアルっぽくて切な愛おしいです。シャネルの香水はマドモアゼルココが大好きなので、それをイメージしました。 (2020年12月15日 11時) (レス) id: c38ac67a9b (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - kukuさん» kukuさんコメントありがとうございます、嬉しいです!ほんと励まされます…!どうか引き続き楽しんでいただけますように! (2020年12月7日 22時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - ぽてとさん» お返事ありがとうございました!ようやくご自身のお名前出てきたと思うので、どうか引き続きお楽しみいただけますように…! (2020年12月7日 22時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:たまご | 作成日時:2020年12月4日 16時

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