地上32階の恋【黒】

お気に入りの猫１【黒】 ページ16

“女でもできたか”


…いや、できひんし…



と言いつつ、


咄嗟に浮かんだんがあの子ーー…


“ヒヨリちゃん”の顔やったんは、自分でも衝撃やった。



…名字と名前以外なんも知らんし

いくつなんかも


トータル会話した時間なんて20分くらいなんちゃう？


…それでも、俺はコンビニ寄るとかなんだかんだ理由つけてマンションの近くで車下ろしてもらって

わざわざ正面エントランス選んで帰っとる自分にうっすら気がついていた。


…別に、恋とか言うつもりないし

付き合いたいとか抱きたいとかそういうんちゃうし


そもそもこの年んなると、そういう欲求すらどんどん枯れてくよなあ…


やけど…


ペットショップの店頭におるお気に入りの猫を“今日も元気かな”て覗くみたいなもんで

…いや、そんなこと言うたらあの子にむちゃくちゃ失礼やけど


毎日ぴっとした制服着て背筋伸ばして働いてる姿見ると


…なんやろ、俺も頑張らな、って…


…人はこんな気持ちを、なんと呼ぶんやろう。


50代くらいのおっさんが新入社員見て若い子はええな言うんと全く同じやったらどないしよう思いながら


「おかえりなさいませ、横山様」


「…ただいま」


…遅い時間やから、違う人かもって思っとったんやけど。


今日も正面から入ってあの子にそう声をかけられて、ほっとしとる自分がおった。



「…お疲れですか？ 12月に入るとお仕事大変ですよね」


「ああ、うん…年明けから新番組始まるんやけどさあ、その収録もあって」


「そうなんですね、楽しみにしております」


「ありがとう。あ…ヒヨリちゃん」


「ーー…」


…俺は口に出してから自分の失言に気が付く


ああ、やってもうた



頭ん中で勝手に“ヒヨリちゃん”呼んどるから咄嗟にーー…

お気に入りの猫２【黒】→←エゴと責任感【CM】

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す