58話 ページ18
じわりと手に汗をかくのを感じた。
彼は今、僕の何を見ているんだろう。何かを探ろうとしてるのだろうか。
「お前、この後の訓練はもうやめておけ」
「えっ」
「お前は疲れてる」
兵長にそう言われてしまえば、否定できる訳でもなく「分かりました」と頷く。
彼は兵士をよく見ている。クィンタ区の日も、僕の腕の負傷に気付いてくれたのだ。
もしかしたら今も僕の何かに気付いて、気を使ってくれてるのかもしれない。
「……兵長って、凄いですよね」
思った事を口に出してしまい、内心で「あ」となってしまったが、何となくそのまま続けた。
「位置も実力もあって、仲間からの大きい信頼もあって、人の微かな変化に気付いては手を差し伸べて。優しさもあるし、誰よりも頼れるし…」
視線は風に撫でられさわさわと揺れている地面の草。
不規則に揺られ、太陽の光を浴びているそれらがとても綺麗に見えた。
「なんでそんな凄い人が、自分みたいなただの兵士にこうやって構ってくれるのか、よく分かりません」
「A」
「はい」
「色々訂正したいところはあるが、簡潔に言うならまず俺はお前が思ってるような人間じゃない」
「うそ」
「本当。だがそう見えるなら、それは俺がお前から見てそうでありたいと思ったからかもな」
「どういう事ですか?」
「お前の前でそう振舞ってるだけだ、誰構わずそんな事はしねぇよ」
今、とても嬉しいことを言われた気がする。
気が浮かれ心がゆらゆらと静かに揺れているようで、何だかむず痒くなった。
「…自分は、運がいいなって思います」
「何が」
「あの時、兵長が自分の手を掴んでなかったら、今はなかったのかなとか」
「クィンタ区の日の事か」
「はい。きっとあの日、兵長と会ってなかったら、今日という日を迎えた今、貴方の隣にはいなかったと思うんです」
きっと、今リチェとロイドの2人がいる所に立って、エルドさんの話を聞いて。
兵長の事を気にすることもなかったんじゃないか、そう自分でも思ってしまう。
「なら俺も運が良かったな」
彼の低く滑らかなその声が、体に染み渡るように頭の中に入ってきた。
何を見るわけでもなく泳がせていた視線を兵長に向ければ、彼もまた僕の事を見ている。
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やし野(プロフ) - Soleilさん» ありがとうございます、絵を褒めてもらえるのは嬉しいです!! かっこいいと言われて主人公くんも喜んでるはず!笑 (2018年7月10日 17時) (レス) id: 3f26a78505 (このIDを非表示/違反報告)
Soleil(プロフ) - イラスト拝見させて頂いたのですが、めっちゃかっこいいですね!絵がとてもお上手ですね (2018年7月10日 14時) (レス) id: bc0cb92646 (このIDを非表示/違反報告)
やし野(プロフ) - Rainさん» 嬉しいお言葉たくさんありがとうございます〜!マイペースに頑張っていくので宜しくお願いします!! (2018年7月2日 17時) (レス) id: 3f26a78505 (このIDを非表示/違反報告)
Rain - すっごく面白いです!!これからも頑張って下さい!応援してまーす!更新楽しみにしてます! (2018年7月1日 22時) (レス) id: e08e47c2f9 (このIDを非表示/違反報告)
やし野(プロフ) - Soleilさん» ありがとうございます。コツコツ書いていくので今後とも宜しくお願いします(^O^) (2018年6月25日 21時) (レス) id: 3f26a78505 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:やし野 | 作成日時:2018年3月31日 23時