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きっと其の五十三 ページ3

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地下の拘留場、壁に取り付けられたランプが薄暗く照らす其処には1人の女が繋がれていた。

女は中原の存在に気付き、顔を上げる。

「よォ、随分久しぶりだな……柚杏」
「ええ、久しぶりね」

柚杏、と呼ばれた彼女は薄っすらと笑みを浮かべた。

「背伸びた?服の趣味も少し変わったみたいだけど……」
「五月蝿え。俺は手前とゆっくり思い出話をしに来たわけじゃねえンだよ」

中原の鋭い視線が柚杏を突き刺す。

「さっさと目的を吐け。拷問部隊に嬲られたくはねえだろ」

有無を云わせぬ視線とその上に乗せられた薄氷のような殺気が柚杏にも感じ取れた。
乾いた口を誤魔化すように唇を噛む。


「羊の根本は昔からずっと変わらない……復讐だよ」
「この期に及んでポートマフィアに復讐を企てるのか」
「違う」
「何だと?」

思わぬ返答に中原の片眉が上がった。

「なら誰への復讐だ」

"誰"と訊いた時点で、中原も悟っていた。
でも真逆、彼奴が、羊の奴等に復讐を受ける理由はどこにある?

考える間もなく、彼女は中原の懸念を云い()てた。


「……AA」
「………あァ?」

中原から恐ろしいほどの殺気が吹き出す。
彼の足元に放射状の亀裂が入り、クレーターができる。
獅子も喰いそうなほどの目で睨みつけられ、柚杏の喉からはヒュッと細い息が洩れた。

そんな様子すら見えなくなっているのか、中原は足を振り上げる。高級品の靴裏が柚杏の顔面すれすれを通ってその背後の壁を踏みつけた。
破砕音とそれによって砕けた欠片がパラパラと落ちる音。

「何で彼奴が復讐を受けなきゃならねえ」
「っ……殺したからよ、羊の仲間を……」

柚杏は浅い呼吸を繰り返しながら話し始めた。
7年前、中原が組織を抜けてから"羊"と名乗る少年少女達はその界隈から姿を消した。
厳密に云えば、"王"を失った羊の力はその界隈へ身を置いておける程のものではなかったのだ。

そこで彼等はとある地上げ屋の下に着くことにした。
その地上げ屋があの日、Aを港に追い詰めた後、発動した異能によって殺された男たちだった。

「其処には仲間達(あいつら)も居た……そう歳も変わらない女だから大丈夫だろうって、でも、誰一人帰ってこなかった……!」

感情を1つも隠そうとせずに柚杏は続ける。

「ずっと"奪われる生活"ばかり、何で…私達ばっかり……」


彼女の目から涙が溢れた。



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ヤマダノオロチ(プロフ) - カンナさん» ちょっと……涙が出そうです……ありがとうございます。お待たせしました(> <) (2020年6月16日 19時) (レス) id: 20ed7c05bd (このIDを非表示/違反報告)
カンナ(プロフ) - 初コメ失礼します。更新楽しみにしていました。おかえりなさい(*´ω`*) (2020年6月16日 18時) (レス) id: 5ade983ea5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ゆのみ | 作成日時:2019年5月11日 13時

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