きっと其の三十九 ページ39
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翌日、休みなのを良い事に昼近くまでベッドでうたた寝を繰り返していると、インターホンが鳴った。
ボサボサの髪へ申し訳程度に櫛を一度通し、寝間着の上にパーカーを羽織って玄関先まで行く。
「はい」
「休みだからってゴロゴロしてたわね、A」
「えっ、アリス?」
「そうよ。早く開けてちょうだい」
云われるが侭にドアを開けると、其処には私服のアリスが両手を腰に当てて立っていた。
「突然だけど、お別れを云いに来たわ」
「……帰るの?祖国に」
何となく検討がついてそう尋ねると、「ええ」と肯定の言葉が返ってくる。本当に突然の出来事で驚いた。
「抑々、貴女の為に居たようなものよ。というか完全にそうね。貴女が真実を知った今、私がポートマフィアへ居る理由は無くなったわ」
大きな目を細めて彼女は微笑む。それは初めて見た表情で、後ろから差す逆光が効果して、とても儚く見えた。
「ありがとう、A。もう1人の…鏡の国の、"アリス"」
「私こそありがとう。貴女のおかげですごく救われた」
「またいつかね」と踵を返して去っていくアリス。
その背を見送ろうと廊下まで出た。
すると、数歩進んだ彼女の足が反転する。
アリスはAへ駆け寄ると、Aをキツく抱きしめた。
「"アリス"、どうか気を付けて。絶対に死んじゃダメよ。貴女は無茶しすぎる所があるから、1人で抱え込まないで、溢れる前に誰かに云うのよ。私でもいいわ、手紙も書くから。また絶対に会いましょう」
耳元を涙声が濡らすものだから、Aの鼻の奥もツンと痛くなった。自分よりほんの少しだけ小さなその背に手を回して、「うん」と力強く頷く。
それで抑えたつもりだったのに、Aの目からも涙が零れる。
「幸せになって、A。迷ってもいいの、人生なんて迷路みたいなものよ。そういうときは自分が好きな方を選ぶの、どっちも好きな道なら、どっちにも進んでみればいいから」
指でAの涙を掬いながらそう云ったアリスは、今度こそ祖国へと旅立った。
まるで、Aの今の悩みを見透かしたような台詞を残して。
そして彼女の言葉は確かに、Aの覚悟を決めた。
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作者名:ヤマダノオロチ | 作成日時:2018年2月5日 0時