きっと其の三十六 ページ36
.
「失礼します、首領、連れてきました」
「黒蜥蜴のAA、参上致しました」
膝をついて
緊張でバクバクと鳴り止まない鼓動は2人に聞こえていないだろうか。
「顔を上げ給え、A君」
「はっ」
「連れてきてもらって悪いけど、少し外してもらえるかね。中也君。A君と2人で話がしたい」
「承知致しました」
中原幹部が去った後、部屋の中には少しの沈黙が訪れた。時間にすると数分もないかもしれないが、今この場に居るのは組織の
下っ端にとってこの男と沈黙の間を共にすることはハシビロコウと睨み合うより辛いのだ。
「…さて、寝起きに呼び出して悪いね。まだ疲れも残っているだろうし、掛けるといい」
「お気遣いありがとうございます。では、失礼します」
「そんなに緊張することないよ。悪い事は云わないから」
「組織の長として畏れられることは悪い事じゃあないけれど、些か寂しくてね」と、首領が困ったように笑う。何を云われても愛想笑いしかできていないが、大丈夫だろうか。
「早い所本題に入るが、その前に……君は
「何処まで、とは……?」
「君自身の事をだ。聞いただろう?事務員の彼女から」
「……ああ、その事でしたか」
私は、自分は首領に拾われる前日に会った男性__ドジソンの実の娘だということと、そのドジソンと首領__森鷗外は知り合いだったということまで知ったことを話した。
首領は何度か相槌を打って、最後に「そうか」と何処か懐かしそうに呟いた。
「確かに、私とキャロルさんは知り合いだったよ。君の事を頼まれたのも確かだ」
「ではあの朝、私を介抱してくださったのは偶然ではなかったと」
「嗚呼、そうだよ。A君の母君の訃報を聞きつけた彼は、君を心配してヨコハマまで渡ってきたんだ」
そしてルイス・キャロルことチャールズ・ドジソンは、ヨコハマの裏社会を統括するポートマフィアへ娘を預けた。
恐らく、何も知らない土地で知識も時間も無く、元・町医者へ掛け合うくらいしか手段が無かったのだろう。
街の暗部へ娘を預けたことに対しての意見は様々だろうが、私が今生きているのは彼がそうしてくれたお陰だ。
1ミリでも気を抜けば、涙が溢れそうだった。
.
169人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ヤマダノオロチ | 作成日時:2018年2月5日 0時