【文スト】きっと純愛 (ページ26)

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きっと其の二十六ページ26

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「お前、綺麗な目してるな」

今まで気付いていなかったが、Aの瞳は蒼色をしていた。自分のそれよりも暗く、深みのある色だ。

「これは生まれつきで…」
「両親の顔は知ってるか？」
「母だけ…父は物心ついたときから居ませんでした」
「……そうか」

今時片親なんて珍しくない。Aが何事も無いような顔で事実を云ったのは本人も特に気にしていないからなのだろう。
片親すら居ない奴だってポートマフィア(この世界)じゃ沢山居る。

「母から父は外国(とつくに)の方だって聞いていたので、たぶん父の影響ですね。母は純日本人でしたし」
「そうだったのか」
「というか、よく気付きましたね。初めて指摘されました」
「そりゃあ…こんだけ近付いてればな」

その一言で、Aは中原との距離の近さを再認識した。途端に頬がカァァ…と赤くなるのが判る。
恥ずかしくなったので、立ち上がって無理矢理距離を取ると、足元で中原が笑った。

「初心だな」
「かっ、揶揄わないでください」
「フッ……」
「幹部！」
「判った判った。ほら、帰るぞ」

無意識に伸びた手。その手の意味を理解できなかったAはきょとんとした顔で中原を見た。

ハッとしてその手を下ろす。

何だ今のは。あんなの、恋人でもない奴にするような行動じゃないだろ＿＿

「……わり、何でもねえ。行くぞ」

そう思ったところで彼も恥ずかしさを感じてゆっくりと歩き始めた。

手を伸ばして俺は何をしようとした？
Aに何を求めた？

「…幹部、熱でもあるンですか？」
「あ？」

いつの間にか隣に並んで歩いていたAが控えめに訊く。

「別に、ねえよ。手前こそどっか悪い所はねえのか」
「強いて云うなら一寸眠いです」
「元気なんだな」
「はい」

少し歩いた所にある中原の車まで着くと、彼は鍵を開けて助手席の扉を開いた。
当たり前のように送ってくれようとしているのだ。
勿論、Aはまず遠慮するのだが。

「るせぇ、"幹部命令"だ」
「……職権乱用…パワハラ…」
「何か云ったか」
「気のせいですよ」

幹部が運転する車の助手席へ乗ったのは、あの夜以来だろうか。ラヂヲから流行りのジャズが流れている。

心地よい揺れに身を任せている内に、Aはいつの間にか眠ってしまった。

(まあ、可愛くなくはねえよな)

中原はふと思った事をかき消すように小さく咳払いをするのだった。

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