【銀魂】沖田隊長、約束をしましょう【沖田総悟】

称えているように　沖田side ページ35

「なら、護ってくれよ。一番隊、副隊長として」


Aのこめかみ辺りに浮かんでいた汗が、音もたてることなく落ちてきては頬に流れた。道場の天井に埋め込まれている安っちぃ照明がそれを照らし出して、キラリと光って、それがなんだか、Aの今までの努力を称えているように見えた。その小さな汗の一粒ですら眩しくて、俺は目を細めた。けれどその真向かいでは。俺の正面に立っている、というより、立ち尽くしているAは、まだその目を見開かせていて、驚愕を沈めることが出来ずにいるようだった。Aの握り締めている竹刀の先が床にとん、とついて、静かな音がその場に響いた。驚きのせいで、手の力が抜けそうになってしまったのだろうか。またギュッと竹刀の柄を握り直している。まだ手離すつもりがないかのように。

まぁ、そりゃ驚くのにも無理はないだろう。俺は今まで散々、このことから逃れようとして、目を逸らし続けたままで、向き合おうともしていなかったのだから。Aが俺の隣で。一番隊の人間として。真選組として共に戦場に立ちたいと望んでいることを知っているのに、その真っ直ぐで切実で強い気持ちすら無視して、誤魔化してきたのだから。それにきっとAも気付いていただろう。だから、こんな勝負を持ち掛けたのだ。だから俺に、言葉をかけたのだ。

強くなろうと上を向き続けていたAの傍らで、俺は失うことへの怯えと、以前にAのボロボロになった姿を思い出しては下を向いていて。そんなどうしようもなく情けない自分ではもういられないと思えたから。


今は、Aと同じ方向を、見据えていたい。逸らすことなく、逃げることなく。


「…いいんですか」

「……あァ」

「だって沖田隊長は……それを…、」


望んでいない。望んでいなかった。望むことが出来なかった。どうしても。

怖かったから。恐ろしかったから。傷付けたくなかったから。傷ついてほしくなかったから。痛みに歪むコイツの顔を見たくないから。赤色を滲ませるコイツの小さな身体を見たくないから。今でもそれは同じだ。怖いし恐ろしいし、傷ついてほしくない。けれど。


俺がコイツのすべてを護ってやらなければならないほど、そうしてやらなきゃならないほど、コイツは弱くなんかなかった。


それを、今更だが知ったのだ。知ることができたのだ。


「……お前なら平気だと、思えたんでィ」


俺の背中を預けちまっても、コイツはコイツの強さだけで、生き抜くことが出来る。


それほどの強さを、コイツは持ち合わせている。

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