【銀魂】沖田隊長、約束をしましょう【沖田総悟】

運動 ページ21

…沖田隊長へと竹刀を手渡すために伸ばした手はもう震えていなかった。彼を目の前にして、彼の鋭く鋭利なものへと変化した目を見て、竹刀を彼に差し出して、もう逃げられないことを身体が悟ったからかもしれないし、単にそういうタイミングだったのかもしれない。どちらでもいい、震えが止まってくれて良かった。ガタガタ震えた腕じゃ、まともに戦えるとは思えない。彼は「本当にやるんだな」と私に確かめるかのように私を見下ろしており、私はそれを見上げている。一歩も引くつもりはなかった。目を逸らすつもりもなかった。彼から、現状から、自分の意思から。ここで怖じ気づいてしまったら、何も伝えられない。なんだかタイマンを張るような感じになってしまったけれど、これはただ彼に私の意思を伝えるためのものなのだ。

伝えるために、真っ直ぐに彼を見つめ、ぶつかるのだ。この視線のやり取りは、その序奏のようなものだ。私の戦いは、既に始まっているとも言えるだろう。ドクン、ドクンと心臓が大袈裟なくらいに大きく動いていて、全身に血液を巡らせている感覚が感じられて、身体が熱くなってきた。見える世界すら変わっていくような。

沖田隊長は暫しの間私を見つめてから、漸く手を伸ばしては、私の手から竹刀を受け取った。一本分の重みがその手から消えて、代わりにこれから彼とその竹刀と私の竹刀をぶつけ合うことへの昂りのようなものが沸き上がってきた。


緊張が一周回っているのだろうか。けれどなんでだろう、怖くはなかった。怖いはずなのに、怖いという気持ちが何かに麻痺させられているような。不思議な感じがした。今まで経験のない感覚。


「……そういや、お前と手合わせすんのは初めてかもしんねェな」

「そうですよ、沖田隊長ってば全然してくれないんですもん」


私が真選組に入隊してから暫くの間、彼は私への態度を意図的に悪くしていたからその時は勿論のこと、彼のその意図を理解してからも彼と竹刀を交えることはなかった。合同稽古の時も彼はほとんどかったるそうにしているし、そうじゃないなら他の隊士さんをこれでもかとしごいているし、中々機会もなかったのだ。

だから、冷静に考えてみればそう、彼と一対一でやりあうのは初めてのことで、そのことを思い出しては緊張がほんの少しだけ顔を見せた。


「丁度眠れねェし、ちょっとくれェは運動させてくれよ」

「なんなら、私が気絶でもさせてあげましょうか」


若干彼に舐められているような気がして、そんなことを言い放った。

饒舌→←恨みっこなし

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す