お兄ちゃん、いかないで【鬼滅の刃】

7話 ページ7

A「お兄ちゃん、もうすぐ最終選別でしょう…
私、なんにもできないから…
ごめんね、頭が悪くって…たくさん迷惑かけて…」


獪岳「…何言い出すんだよ、急に。」


A「うん…でも、言いたくって。
お兄ちゃんは、私が何もできなくても一緒にいてくれたでしょ？
だからね、ありがとうって、言いたくて。」


獪岳「なんだそれ。今更だろ。
お前のこと捨てなかったのは俺の気分と先生のおかげだ。礼なら先生に言ってこい。」


A「…うん。捨てないでくれて、ありがとう。
私幸せだよ。お兄ちゃん大好き。」


まっすぐに見つめて言ってくるものだから、なんだか気恥ずかしくなって力強く木刀を振った。


長い間沈黙が続き、俺が木刀を振る音だけがやけに大きく響く。

妹はまだ部屋に戻らない。



幸せ、大好き



俺なんかに向けられる言葉じゃない。

あんなに傷つけたのに、好きだと言ってくれる。

こんなにいい子が本当に俺の妹なのか。

俺は平気で友を売ったり、殺させたりするのに。

こんなに綺麗な心の持ち主が、まっすぐと俺を見つめて好意を伝える。

絶対にもっと幸せにしてやりたい。

俺なんかより優しくていいやつで金持ちの男と結婚させる。何不自由なく暮らせるように。

もし誰かがこいつを傷つけたら、俺がそいつを殺してやる。


お前はずっと大丈夫。これからは幸せしか訪れないから。兄ちゃんが約束する。



四半刻ほどすぎただろうか。

木刀をおろして振り向くと妹はぷるぷると震えていた


獪岳「な、なんだ、どうした。冷えるか。」


A「お、おにいちゃん、は…
私がきらい…？私、まだいらない…？」


ああ、返事をしなかったからか、と気づくのは遅くなかった。


そういえば、こいつに直接、守ってやるとか、好きだとか、幸せだとか言ったことがなかった。


獪岳「ああ、あーと…その…いらなく、ない、ぞ。
お前は俺の妹だ。大切な…だから…その…俺も、幸せだ。お前が妹でよかった。…好き、だぞ。俺も。」

言い終わってゆっくりと妹に目を向けると、大きな瞳をより一層見開いてじわじわと濡れていく瞳を見つめる。

涙は溢れることはなく、目の際にこれでもかとたまり続ける。


A「ありがとうお兄ちゃん。私、泣かないよ。
ずっといい子でいるから、ずーっとお兄ちゃんの妹でいさせてね。」


昔、すぐに泣くから嫌いだと言ったことがあった気がする。

それ以来、小さな妹は転んでもどれだけ怖い目にあっても泣かなかった。

8話→←6話

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す