鬼の目にも涙 ページ12
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椅子に小さく収まって本を読む後ろ姿。そこに朝の気だるさは微塵もなく、しゃんと背筋が伸びている。俺が声をかけると、その背中が小さく揺れた。
「はよ!」
「……おはよう、宮。どうしたの、随分テンションが高いね」
やたらと声がデカい俺に、朝原さんはたじたじといった様子だった。構わず、ずいと本を差し出す。
「これ!めっちゃ良かった!」
「……え、もう読んだの?」
一週間はかかるんじゃないかと思ってた、と朝原さんは目を丸くした。
俺も正直意外だった。読破したろと意気込みはしていたが、それで俺の文字を追いかけるスピードが早まる訳では無い。早くて二週間、最悪一ヶ月近くかかる、というのが当初の予想だった。
しかし、意外や意外。少し分厚すぎると思われたそれを、俺はわずか一夜で読破してしまった。
「様子見のつもりで数ページ読んでみてん。ごっつおもろくてな、止まらんくなってしもうた」
「っ、分かる! すごく引き込まれるんだよね、この小説」
朝原さんが声を大にするのは初めてだ。いつもは感情を読み取らせない静かな瞳がぴかりと輝いた。よっぽど好きなんだろう。
「派手な感じではなくて、ラストまで淡々と進んでいくんだけど、テンポが独特なんだよね。時々ふふってなっちゃうような描写があったりして。それで最後は感動。私、何回読んでも最後で泣いちゃう」
「朝原さん泣くん? 実は俺も泣いてもうたんやけど」
「宮こそなくの!?」
これが泣いてしまったのである。治にドン引きされた。
そもそも俺が読書をしている時点で、奴は変な顔をしていた。明日は槍でも降るんちゃうか、と軽口は忘れない。
風呂の後、俺は二段ベッドの上、治は下で各々自由に過ごしていた。上段から聞こえる聞きなれない音を怪訝に思ったのだろう、片割れがのそのそとこちらを覗いた。もちろん異音は読書を終えた俺がすすり泣く音で、ハードカバーを胸に抱えて鼻をスンスンと啜る兄の姿を見て治は何を思ったのだろう。何とも形容しがたい顔をしていた。
俺は感情の発露が素直な方だ。意識をしなければすぐに顔に出るし口にも出る。だが、間違っても映画や小説に感動して泣くことなどなかった。俺を人格ポンコツと評する治は、そのことを骨身に染みて知っている。
今度は軽口をたたく余裕もなく、奴は黙って箱ティッシュを差し出した。ありがたく受け取って洟をかむ。その日は就寝までやけに静かで、両親に生存を心配されたほどである。
計算じゃないんだからタチが悪い→←しょうじょまんがかっこかり
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せなけいこ - この夢主ちゃんの性格も、少女漫画のヒロインな宮侑もめっちゃ好きです!この作品を生んでくれてありがとうございます。性癖に刺さりまくりです!! (2020年9月18日 15時) (レス) id: ef980343e4 (このIDを非表示/違反報告)
さかき(プロフ) - mimiさん» お返事が遅れてすみません!色々考えたのですが、本編はここで終わりにします。しかし私としても書きたいネタがまだたくさんあるので、そのうち別作品と纏めて短編集を出そうかと…。なので、気長に待ってくださると嬉しいです。 (2020年3月5日 1時) (レス) id: d263cbf7f6 (このIDを非表示/違反報告)
mimi(プロフ) - さかきさん» ただ私がこの主人公もミヤツムも好きなので続いて欲しいっていう我儘なのですが…( ; ; )もし続きを書こうか少しでも考えてらっしゃるならぜひ見たいです…! (2020年3月2日 3時) (レス) id: 4447061f23 (このIDを非表示/違反報告)
さかき(プロフ) - mimiさん» 初めまして、まず初めにご愛読ありがとうございます。ごめんなさい、話数の問題で断念したんですが、やっぱり終わりにしては歯切れが悪いですよね…!?もう少し何とかできないか検討してみます! (2020年3月2日 0時) (レス) id: d263cbf7f6 (このIDを非表示/違反報告)
mimi(プロフ) - はじめまして。こちらずっときゅんきゅんしながら読ませて頂いてました…!最後、終わりとなってますが完結なのでしょうか( ; ; )続きを楽しみにしてたので… (2020年3月1日 14時) (レス) id: 4447061f23 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さかき | 作成日時:2019年9月24日 23時