34 ページ41
・
長ったらしい祝辞とか校長先生のお話とか、そういうものが全部全部短く感じられてしまった。思えば、高校三年間ももの凄い速さで駆け抜けていったなあ。
卒業式の後、そんならしくない感傷に浸る。クラスメイトと写真を撮ったり、私を含めて皆そういうのはもう済ませていて、ちらちらと帰る人も見え始めた。
桜の大木に身をゆだねて、ぼうっと遠くの方を見つめる。特に動いたわけじゃないけど、なんだか疲れた。
治くんは彼女ができただろうか。できたよね。だって、春高の優勝カップを持って帰った彼らの人気は凄まじかったし。
私はというと、あれ以来ほとんど言葉を交わしていない。彼がバレー部を引退して、接点は消えた。大学は違うところだろうし、連絡先は知らない。私と彼をつなぐ糸のほとんどは、文字通りぷっつり切れたというわけだ。
辛いな。うん。こんなに凄絶で滑稽な恋愛劇も珍しいんじゃなかろうか。もう当分、恋はいいかな。忘れるのが大変だろうという予感を別にしても。
「A」
「……治くん。なに？」
わざわざ終わりを告げに来てくれたのだろうか。案外冷静に接することができている自分に、なんだか安堵した。
「約束、覚えとる？」
「覚えてるよ」
覚悟していたとはいえ、直接本人から言われるのはつらい。ぎゅっと目を瞑って、衝撃に耐える準備をした。
「それなら話は早いわ」
もったいぶらないで、早くその細い糸を切って。
「すき。付き合うて？」
……はい？
「え、ちょっと待った」
思わず目の前の彼を凝視する。同じことを去年言われた気がするよ？
「なんで！？ 冗談ならやめといたほうがいいよ！？」
「人の一世一代の告白を『冗談』扱いか。傷つくわー。責任取って付き合えや」
「はい！？」
怖い怖い怖い。低く告げられるその言葉は、残念ながら私に混乱をもたらすばかりだった。おい、なんで私の左手をいじってるんだ！？
「手ぇ、ちっちゃいなあ」
「いや治くんが大きいだけだから！ 待って、じゃあ彼女はいないの！？」
相変わらず私の片手を弄びながら、おん、と肯定。嘘でしょ。
「……じゃあ、私のこと、まだ好きなの……？」
「せやって言っとるやん」
ガン、と頭に衝撃。一歩後ろによろめいて気が付く。この左手、私を逃がさないようにしてるんだ。
眠たげな瞳が、私をじっととらえる。
「で、でも、私がまだ好きとは限らないでしょ？」
精一杯の憎まれ口を、治くんは鼻で笑った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 509人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ハイキュー」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
さかき(プロフ) - mimiさん» 話数的にあと一話だけなら書けそうです。内容によっては私に向いてないかもしれないんですけど、もしよかったらリクエストとかありますか？あるようでしたらボード？にお願いします (2019年9月19日 7時) (
レス) id: 8018115b1b (このIDを非表示/違反報告)
mimi(プロフ) - 初コメ失礼します。きついです、この作品まだまだ続いて欲しいです…（ ; ; ）本当に2人とも可愛くて… (2019年9月19日 2時) (レス) id: 4447061f23 (このIDを非表示/違反報告)
さかき(プロフ) - 瑞稀さん» やったー！好きとか可愛いとか言って貰えて嬉しいです！治は甘え上手なイメージがあります笑番外編も楽しんで貰えたら幸いです！ (2019年9月18日 23時) (レス) id: 8018115b1b (このIDを非表示/違反報告)
瑞稀(プロフ) - あぁぁぁ！！！めっちゃくちゃ好きです！！！番外編も嬉しいですありがとうございます！！治くん甘えた可愛すぎて… (2019年9月18日 18時) (レス) id: be8945b53e (このIDを非表示/違反報告)
さかき(プロフ) - まゆ。さん» おつありです！満足いただけたでしょうか。治で書くかどうかは分かりませんが、書きたいネタはいっぱいあって私自身ワクワクしてるので、よかったらまた読んでやってください！お粗末さまでした！ (2019年9月18日 16時) (レス) id: cb48af79f3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：さかき | 作成日時：2019年8月9日 17時
