初対面プロポーズ女の苦難【宮治】

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　あの日から、私は治くんに積極的に関わることをやめた。廊下で話しかけられたら応じるし、手を振られたら振り返す。でも、それだけ。自分からはアクションを起こさない。

　……でも、流石にこれは断るべきだったかなぁ。
　治くんと向かい合って、お弁当をつつく昼下がり。事情を知らない周りが「老夫婦みたい」と笑っている中、私は思わず出そうになったため息を、卵焼きと一緒に飲み込んだ。しょっぱい。
　それをやっとの思いで嚥下して、代わりに言葉を吐く。

「治くんさあ、あのポニテちゃんとどうなの？」

　ポニテちゃん、と治くんが反芻する。うん、とうなずいてみせると、誰のことか分からないのだろう、首を傾げた。

「ほら、私と角名くんが柱の陰でブーメランの音楽隊ごっこしてたときに喋ってた子」

　ブーメランの音楽隊ごっこというワードで思い当たる節があったのか、ああ、と短い音が形のいい唇から洩れる。その動きを、いつもよりも注意深く観察してしまうのはなぜなんだろう。

　あれ、ほんまの不審者みたいやったよなんて、意外と辛辣な治くんに酷いなぁと笑いながら。じゃあ、その笑い声がいつもよりも乾いてしまうのは？

　多分、罪悪感からだろう。治くんは、本気で卒業まで私を好きでいるつもりなんだ。それなのに私ときたら。

「あの子、可愛かったなと思って。仲、いいの？」

「どうやろな。あいつ女バレやから、それなりには関わりあるけど」

　同じクラスやし、と補足。クラスメイト以上友人以下、といったところだろうか。

「スタイルいいよね、羨ましい」

「そうか？」

「うん。ポニーテールもつやつやしてたし。ちゃんとお手入れしてるんだろうなあ、女の子らしくていいなあ」

「ほーん」

　いかにも興味ないですというような、そんな適当な相打ちを打ちながら、本日何個目かのおにぎりの包装を剥く。私は辛抱強く言葉を紡いだ。

「私が男だったらああいいう子と付き合いたいなって。治くんは？」

　リスみたいに食べ物を頬に詰め込むようにして食べるのが、彼の癖だ。頬袋があるんだろうか、と本気で疑いたくなる。でも、今は少し急いでおにぎりを飲み込んでしまったみたいで、それは見られなかった。

「俺が付き合いたいんはAだけやけど」

　淡白な返事が返ってくると思ってたのに。駄目だ、照れるな、私。
　
「そんなことしたって今更揺らがんよ」

　目論見はとっくに見破られていたらしい。私は大人しく白旗を振った。

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