土方十四郎【中村】 ページ39
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時刻、午前6時30分。まだ太陽が顔を出しておらず少し薄暗いこの時間に、私が何をしているのかというと。
「──ふぅー……」
さくり、さくり──屯所の雪かきに勤しんでいた。といっても決してボランティアなんて大層なものじゃなく、何を隠そう私がここの女中をしているからで。
数センチほど積もっていた雪と格闘し始めて、もう30分ほどになるだろうか。今現在はようやく終わってくれたらしいそれに、達成感から息を吐いたところである。
(……そしたら、このあとはどうしよう。)
朝食は起きてからすぐに少し作っておいたからまだ行かなくても間に合うし、洗濯機を動かせば休んでいる隊士を起こしてしまう。でも、そうでないとなると──……うぅん、時間を持て余してしまったかもしれない。
何をしたものだろうかとぼんやり頭を働かせつつ、雪かきスコップを片付ける。とりあえず屋内へ上がっておこうと足を動かせば、普段より格段に冷たく思える外気が頬を突き刺した。
(……そういえば、ここ数年で一番の冷え込みとか言ってたっけ。)
昨日の晩から今日の朝にかけて気温が大層下がるという話を、どこかで聞いた気がする。テレビかな、多分。そうだとしたら未だ昇ったままの月は寒月というやつだろうか──と、そんなことを考えていたら。
「──A?」
「……え、」
不意に聞き覚えのある声が響いたので驚いてしまった。咄嗟にそちらへ顔を向ければ、やはりそこには土方さん。薄暗い中、彼の白い煙が空へ吸い込まれていくのがわかった。
「何してんだ、こんな暗れェ中」
「雪かきですよ。皆、転んだら大変でしょう?」
「んなこたねェだろ、……とも言い切れねェか」
苦い顔をした彼は、多分少しおっちょこちょいなところのある隊士たちを思い浮かべているんだろう。思わずふふともれた笑いに、訝しげな視線が向けられた。
「……なんだ」
「怖い顔しないでください、何でもないです。──それより」
土方さんは、どうしてこんなに朝早く?と。
それは勿論論点を逸らすための言葉であったのだけれど、単純に気になっていたことでもある。
隊士たちの起床時間は7時のはずだ。本来はもう少し寝ていられるのに、どうしてこの人は起きているんだろう。溜まっている疲れも他の人の比ではないだろうに。
しかし、土方さんはさも当然とでも言うような顔をして、一言。
「仕事だ」
ため息が漏れたのは不可抗力である。
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あくび少女 - こんな綺麗な物語、いつか私も書きたいです。 (2019年7月20日 22時) (レス) id: 1b61770dea (このIDを非表示/違反報告)
きなこ(プロフ) - 今までどの作者さんも好きでよく拝見させていただいてました。今では、憧れから自分の小説を書いているのですが、皆さんの素晴らしさを身に染みて感じました。(宣伝みたいですね……ごめんなさい。)これからも沢山の作品を楽しみにしています! (2018年2月6日 22時) (レス) id: 6b9c59579e (このIDを非表示/違反報告)
うおーあいにー(プロフ) - 私が今まで見たことのない位の語彙力と素敵な言葉でできていました! (2017年12月9日 8時) (レス) id: 7ec2bdde97 (このIDを非表示/違反報告)
みぷ(プロフ) - 文章一つ一つが綺麗で、とっても素敵だなと思いました!表現や言葉にも意味が詰まっていてぜひ参考にしたいなと思う作品でした!次の企画があることを楽しみにしています! (2017年7月28日 18時) (レス) id: 941945c1ec (このIDを非表示/違反報告)
戦胡蝶(プロフ) - 本当に綺麗な言葉で綴られたお話ばかりで全部一気に読んじゃいました!素敵なお話ばかりで心がほっこりしてます!!素晴らしい作者様ばかりで私も見習わないとと意気込んでおります(笑)またこういう企画を行ってくださるのを楽しみにしてます! (2017年7月27日 13時) (レス) id: de5c5c0c62 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しののめ x他4人 | 作者ホームページ:http://nanos.jp/aoikasou/
作成日時:2017年7月1日 1時