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祝宴の音楽が鳴り響く。
各場所で待機している隊士たちも中から出てくる男女に暖かな拍手を送る。
ーーー似合わねェ。
Aは、白無垢には桜の刺繍より紅葉の刺繍のほうが断然似合うだろう。
「ーーー不満か?」
「……煩ェ」
「まさかお前が親密にしてた相手があの女だったとはな」
ーーーこれも抗えねェ運命か。
土方さんの言葉に、前の方に座っている新郎新婦を見つめる。祝宴が始まってから一度も笑っていないAはただただ紅葉の散る景色を眺めているだけだった。
「(抗おうにも抗えねェ……。だが、)」
俺じゃなく、野郎がAを幸せに出来るのなら俺は身を引くだろう。だけど、こんなにもまだ胸に残る彼奴への思いも深愛も残っているのは。
ーーー彼女の頬に涙が流れた。
不思議そうに新婦を見る新郎は「そんなに嬉しいのかい」なんて彼女の気も知らずにいう。
「土方さん。俺ァ、職務も身分も忘れてただの一人の男になっていいですかィ」
「勝手にしやがれ。ただ俺たちは知らねェからな」
ーー彼女を幸せにできるのはきっとあの野郎じゃなくて俺だとわかりきっているからだ。
人混みを掻き分けて、一直線に新婦の…Aの前へと行く。目の前に来た俺に目を大きく開き溢れんばかりの涙をため始めた彼女の手を掴む。
「ーーー俺がテメェを幸せにする」
『え?』
「行くぞ」
繋ぎ変えるように指を絡めてくるAに、「了承ってことだな」と呟くと彼女は繋いだ手に力を込めた。
「悪ぃが、此奴を笑顔にできんのは俺の役目なんで。此奴ァ俺が貰いやす」
唖然とする新郎と客らに構わず走り出す。
向かう先は、彼女と初めて出会った紅葉の綺麗な公園で。
『……総悟、』
「……ってことでテメェの結婚式をメチャクチャにしちまった俺なんでーーー責任取らせてくだせェ」
『……っ』
「俺がテメェを笑顔にさせるし、幸せにする。
ーーー……愛してらァ」
水にくぐっても色褪せることのない紅葉。
変わらぬ想いは今世から来世にかけても。俺は彼女を愛し続けるだろう。
ーーーひらひらと宙を舞う紅葉。
昔、一人の男が女を想って唄を唄った。
ちはやふる かみよもきかず たつたがわ
からくれないに みずくくるとは
俺ァ、自分が幸せにできると思ったらどんな壁があっても乗り越えてやる。
ーーー後悔、しねェようにな。
Fin.
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あくび少女 - こんな綺麗な物語、いつか私も書きたいです。 (2019年7月20日 22時) (レス) id: 1b61770dea (このIDを非表示/違反報告)
きなこ(プロフ) - 今までどの作者さんも好きでよく拝見させていただいてました。今では、憧れから自分の小説を書いているのですが、皆さんの素晴らしさを身に染みて感じました。(宣伝みたいですね……ごめんなさい。)これからも沢山の作品を楽しみにしています! (2018年2月6日 22時) (レス) id: 6b9c59579e (このIDを非表示/違反報告)
うおーあいにー(プロフ) - 私が今まで見たことのない位の語彙力と素敵な言葉でできていました! (2017年12月9日 8時) (レス) id: 7ec2bdde97 (このIDを非表示/違反報告)
みぷ(プロフ) - 文章一つ一つが綺麗で、とっても素敵だなと思いました!表現や言葉にも意味が詰まっていてぜひ参考にしたいなと思う作品でした!次の企画があることを楽しみにしています! (2017年7月28日 18時) (レス) id: 941945c1ec (このIDを非表示/違反報告)
戦胡蝶(プロフ) - 本当に綺麗な言葉で綴られたお話ばかりで全部一気に読んじゃいました!素敵なお話ばかりで心がほっこりしてます!!素晴らしい作者様ばかりで私も見習わないとと意気込んでおります(笑)またこういう企画を行ってくださるのを楽しみにしてます! (2017年7月27日 13時) (レス) id: de5c5c0c62 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しののめ x他4人 | 作者ホームページ:http://nanos.jp/aoikasou/
作成日時:2017年7月1日 1時