沖田総悟【しののめ】 ページ13
怖いくらいに、沈む日の綺麗な夜だった。
胸が締め付けられるような儚さを孕んだ光が、藍色に染まった雲にかかる。夏休み中、それも下校時刻をとっくに過ぎた学校の屋上で、私たちは空を仰いでいた。屋上にプールが設置されていて、底まで見渡せるほどに澄んだ水が溜められている。空の色を映していて、水面には白銀の鱗がいくつも浮いているようだった。閃光は錆びて腐りおちそうな柵でさえ宝石へと変えていく。
私たちが息をするのは、そんな、幻想的な世界。
「ねぇ。そうご。」
彼の名を吐きだせば、プールサイドに座り込んだ栗毛がこちらに視線を向けた。いつも通り派手な色を内に覗かせた白いワイシャツ。馬鹿騒ぎしている様子ばかり見て来たけれど、やはりこんな感傷的な空気は彼によく似合う。その冷めた瞳が景色を静かに受け入れていく様が、たまらなく好きだった。
「まだかな。」
「もうそろそろだろ。あっちの空、暗くなってきやしたぜ。」
そういって指さすのは、太陽とは逆の方向。校舎に取り付けられた時計は丁度七時を指していた。ほんとうだ、後少し。
総悟の隣に座る私はその肩に寄り掛かる。頬に触れるのは、彼の体温。ただこうして体温を感じているだけで、景色が煌めいて見えるのはきっと気のせいじゃない。
「.....あつい。」
「お前からくっついてきといて何言ってんでィ。」
「今日の最高気温35度だって、私暑いの嫌いなのに。毎日天気予報チェックが憂鬱。」
「でも今日、晴れやしたぜ。」
ずっと前から雨が降ったらどうしよう、と当てにならない一か月後の予報をスマホに映しながら、総悟に何度も声をかけていたのは私だ。だって雨天延期ではなく、中止の赤字がポスターには掲げられていて。もう八月下旬を迎えたこの夏休みは、"次"なんて待ってはくれない。
「本当に雨降ってたらお天道様恨んでた。」
高校一年生の初夏、恋に落ちた。それから月日を重ねるごとに思いはどんどん増していって、進級して迎えた高校生活二度目の夏。絵に描いたみたいな入道雲が浮かぶ日に、うるさい蝉の声に包まれて思いを告げた。そうやってやっと手に入れた、彼の唯一無二の座。
ずっと憧れていた花火大会。
遠くからおはやしが聞こえる。きっと河川敷にはいくつもの出店が立ち並び、人で賑わっている頃だろう。けれど私達が選んだのは、この場所。
二人だけの特等席だ。
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あくび少女 - こんな綺麗な物語、いつか私も書きたいです。 (2019年7月20日 22時) (レス) id: 1b61770dea (このIDを非表示/違反報告)
きなこ(プロフ) - 今までどの作者さんも好きでよく拝見させていただいてました。今では、憧れから自分の小説を書いているのですが、皆さんの素晴らしさを身に染みて感じました。(宣伝みたいですね……ごめんなさい。)これからも沢山の作品を楽しみにしています! (2018年2月6日 22時) (レス) id: 6b9c59579e (このIDを非表示/違反報告)
うおーあいにー(プロフ) - 私が今まで見たことのない位の語彙力と素敵な言葉でできていました! (2017年12月9日 8時) (レス) id: 7ec2bdde97 (このIDを非表示/違反報告)
みぷ(プロフ) - 文章一つ一つが綺麗で、とっても素敵だなと思いました!表現や言葉にも意味が詰まっていてぜひ参考にしたいなと思う作品でした!次の企画があることを楽しみにしています! (2017年7月28日 18時) (レス) id: 941945c1ec (このIDを非表示/違反報告)
戦胡蝶(プロフ) - 本当に綺麗な言葉で綴られたお話ばかりで全部一気に読んじゃいました!素敵なお話ばかりで心がほっこりしてます!!素晴らしい作者様ばかりで私も見習わないとと意気込んでおります(笑)またこういう企画を行ってくださるのを楽しみにしてます! (2017年7月27日 13時) (レス) id: de5c5c0c62 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しののめ x他4人 | 作者ホームページ:http://nanos.jp/aoikasou/
作成日時:2017年7月1日 1時