33. ページ34
久々に顔を出した行き付けの店はいつにも増してバタバタと忙しなく、入店したにも関わらず「いらっしゃい」の声は聞こえてこなかった。
しかし慣れた店だからこそあまり気にせず、空いているカウンターの席に着いた。
「あっ、いらっしゃい!! 悪いね土方さん、今日バタバタしてて...」
「構わねぇよ、とりあえず生貰えるか?」
「あいよっ!!」
煙草に火を付け、注文が届くのを待ったが一向に目の前に出される事はない。
いつもなら彼女がお通しと一緒に持ってくるのだが...。
「…Aは休みか?」
「え? あぁ、Aちゃんはね、つい先週辞めちゃったのさ」
「辞めた?」
「いやぁ、本当に急でねー… 困っちゃったよ… あの子が居なくてこの通りてんやわんやで」
土方は眉を顰める何か考えるように顎に手を当てた。
そうしてる間にも漸く初めに注文したビールが出された。
「理由も告げずに辞めたのか?」
「いやぁ、それが『旅に出る』ってんで」
「"旅"?」
「でもねぇ...」
「気掛かりでも有るのか」
親父の引っ掛かった言い草に尋ねると手際良く動かしていた手を止めぽつりと零す。
「前に、倒れた事があっただろう?」
「本人は言わないけど...、体調が良くないのかと思ってね」
心配そうな顔でそう言ったが、営業中である事に慌てて「いやぁ!! 困った困った」なんて苦笑いを作って見せた。
"旅に出る"________。
真面目な彼女にしては違和感のある冗談だ。
「旅行したいとは聞いてたが...」
まさか本当に姿を消してしまうなんて、あの時は思わなかったのだ。
---
138人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
アカツキ(プロフ) - 美姫さん» コメント有難うございます。登場キャラの想いが交差してぐちゃぐちゃに絡まるような、そんなお話にしたかったのですが難しかったです... 最後まで読んでくださり有難うございました (2023年2月12日 10時) (レス) id: 359e2a8a6b (このIDを非表示/違反報告)
美姫(プロフ) - 切なくて切なくて、でもとても美しい作品で、涙が止まりませんでした。本当に最高の作品でした。ありがとうございました。 (2023年2月12日 7時) (レス) id: ac5aee6225 (このIDを非表示/違反報告)
アカツキ(プロフ) - おひなさん» 初めまして。コメント有難うございます。土方さん落ちは久々だったのでこれで良いのか迷走しましたが、おひなさんの暖かい言葉に救われました (2023年2月9日 7時) (レス) @page49 id: 359e2a8a6b (このIDを非表示/違反報告)
おひな(プロフ) - 最っ高な作品をありがとうございました!終始涙腺崩壊でした!w (2023年2月9日 2時) (レス) @page49 id: fb3fd917e6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:アカツキ | 作成日時:2022年12月27日 23時