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家の中に入ると、画材やらが散乱し悲惨な状態だった。
「なん、だ...こりゃ......」
物を踏んでしまわないよう、つま先でゆっくり歩き奥へと進む。
『帰ってください、今日の依頼はキャンセルです』
透き通った声が冷たく響く。
家の主である其奴はカチャカチャと散らかったそれらを拾い集め片付けながらそう言った。
「...何があったんだ?」
『聞こえませんでしたか? 帰ってください』
「そりゃねぇだろ、理由くらい」
理由くらい聞かせろ、と。
そう言おうとしたのに、彼女が『銀時さん』と普段は呼ばない呼び方をするもんだから俺は思わず口を噤んでしまった。
ずっと呼んでくれなかった呼び方を、『照れ臭いから』と言っていたのを…実際は何の恥ずかしげも無く言うのだ。
こんな時だけ狡いと思った。
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出て行けと言われて出て行く程俺は素直な人間じゃない。
黙って片付けを手伝う俺に何を言っても無駄だと思ったのか、彼女は何も言わなくなっていた。
彼女が描いたであろう作品の数々が破かれたり、墨で黒く塗り潰されたり、散々な目に遭っている。
「こんなに綺麗なのにな...」
酷い事をする奴が居たもんだ。
絵の事など一切分からないが、繊細なタッチで鮮やかな色遣いのそれらは素人の俺が見ても綺麗なものだった。
片付けていた音が止み、彼女の方に目を向ける。
俯いたまま動かない。
「…どうした?」
顔を覗き込んで後悔した。
ポタポタと垂れ落ちる滴が集めた画材を濡らしていく。
此奴は多分、俺にこんな姿も顔も見られたくなかったと思う。
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アカツキ(プロフ) - 黒猫さん» 黒猫さん、お久しぶりです。コメントありがとうございます。終わりが見えずグダグダと更新してますがそろそろ本気で終わらせようと思います… (2022年10月26日 7時) (レス) id: 16de2d871f (このIDを非表示/違反報告)
黒猫 - 衝撃的な展開! てかお前かい! このモブめo(`ω´ )o (2022年10月24日 22時) (レス) @page21 id: 8c85f5adc6 (このIDを非表示/違反報告)
アカツキ(プロフ) - 黒猫さん» コメント有難う御座います。もう少し続きますが最後まで楽しんでいただければと思います (2022年8月23日 7時) (レス) id: 5f592be880 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫 - 応援してます! (2022年8月22日 21時) (レス) id: 1ec2eca413 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アカツキ | 作成日時:2022年8月21日 17時