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一人の男が立ち止まる。
陽の光が遮られて出来る影にAは顔を上げた。
紫の着物に蝶が舞い、笠を深く被った男。
その人物は彼女を見下ろして見る。
『……』
「……」
お互い何も言わない。
男の左目には包帯が巻かれていたが残ったもう一つの瞳は深緑の綺麗な色をしていて吸い込まれてしまいそうな感覚になり、Aは思わず顔を伏せた。
先に口を開いたのは男の方だ。
「此奴ァ、御前さんが描いたのかァ?」
低い声が降ってくるが顔を上げることは出来なかった。
これは怖いと言うより、少し嫌な感覚だ。
根拠はないが直感がそう言っている気がした。
『そう…です』
「…へぇ…? 良く描けてるな」
『…有難う御座います』
「ムカつく野郎を思い出す」
褒めたと思ったがそんなセリフが聞こえてきてゾッとする。
その絵はいつもの"万事屋さん"の絵なのだが、彼の知り合いだろうか。
聞くに聞けないが恐る恐る顔を上げて目の前の男を再び見る。
「…何だ」
良く見ると腰には帯刀しており、廃刀令のこのご時世…役人でない限り違反である。
何よりこの人物が役人には決して見えない。
『あ、の… 貴方を描いても良いですか』
言葉に詰まりつつも発したセリフに男は此方をじっと見つめて「止めとけ」と言う。
「何故俺を描きたいと思ったんだ」
『…瞳が、綺麗だったから…』
「ぁ?」
『貴方の…、右目が綺麗な色をしていた、から』
綺麗なものをみると描きたくなる。
彼は少し怖い雰囲気を持っているけど、その瞳は純粋に綺麗だと思ったのだ。
切長の薄く開かれた目から覗くその瞳は好きだ。
「ふ…くく…、そうかい」
「ならこっちの左目は御前さんにくれてやりゃ良かったな」
喉に掛かる小さな笑い声。
手はその笑いを抑えるどころか、包帯の巻かれた箇所に触れる。
"何か"あったのは聞かずとも分かるが、やっぱり聞く勇気なんてなくて、ただその姿を目に焼き付けた。
彼は「止めとけ」と言ったが「描くな」とは言っていない。
だから私は彼を描く為にその姿を残さず見つめた。
「…気に入った、御前さんの絵一つ貰っていく」
そう言ってまじまじと並べられている絵を見る。
そして指差すのは最近描いたばかりの、...万事屋さんと一緒に見た空の景色だった。
「これだ、此奴をくれ」
男はお金の入った包みを手渡し、満足そうな顔でその絵を手に取る。
「綺麗だ」
お世辞などではない、そうだと分かる気持ちの籠った一言に『それは貴方の方だ』と言いたくなった。
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アカツキ(プロフ) - 黒猫さん» 黒猫さん、お久しぶりです。コメントありがとうございます。終わりが見えずグダグダと更新してますがそろそろ本気で終わらせようと思います… (2022年10月26日 7時) (レス) id: 16de2d871f (このIDを非表示/違反報告)
黒猫 - 衝撃的な展開! てかお前かい! このモブめo(`ω´ )o (2022年10月24日 22時) (レス) @page21 id: 8c85f5adc6 (このIDを非表示/違反報告)
アカツキ(プロフ) - 黒猫さん» コメント有難う御座います。もう少し続きますが最後まで楽しんでいただければと思います (2022年8月23日 7時) (レス) id: 5f592be880 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫 - 応援してます! (2022年8月22日 21時) (レス) id: 1ec2eca413 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アカツキ | 作成日時:2022年8月21日 17時