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「──それでは各候補者のアピールタイムに移りましょう! まずはエントリーナンバー1番、経済学部三年宮治くん!」
そんなMCの後、治くん以外の候補者が舞台袖にはけていく。一人残された治くんはマイクの前に立って、口を開いた。
「本当やったら俺バレーやってるんで、そういうアピールしたいんですけど、ネット立てるわけにもいかへんので、スぺゲス呼びました」
隣に座るツムさんがそわそわとし始めて、マスクと帽子を外す。
ツムさんが治くんにぶんぶんと手を振ったら、治くんがこっちを見た。「おった、」とだけマイク越しに小さな声がしたかと思うと、不意に治くんと目が合う。
ほんの少し目を丸くした彼にどういう表情をしていいかわからなくて、私はつい俯いた。
「……侑、はよこっち来い!」
「なんでお前に命令されなあかんねんクソ治!」
立ち上がって叫んだツムさんに視線が集まり、客席がざわめきだす。
ツムさんはステージに駆けあがると、治くんの隣に立つ。
「俺の双子の兄弟です!」
「どうも宮侑言いますーよろしゅう!」
双子芸は結果的に相当ウケた。ただでさえ顔の良い治くんに瓜二つのツムさん。
一気に場は盛り上がったし、関西出身ならではの彼らの漫才は普通に面白かった。
けれど、これ以上治くんを見ていると辛い。漫才してるからとはいえ、笑っている治くんを見ていると胸の奥が締め付けられるような気がして、息が苦しい。
その笑顔がもう私に向かないかもしれないと思うと、怖い。
双子漫才が終わりを迎えるころ、私はそっと席を立った。カフェの方に戻ろうと思った。
仮設ステージからカフェの教室までは少しだけ遠い。
浴衣だとなおさら遠く感じた。文化祭の喧騒が耳から頭へとずんとのしかかってくる。
わからなかった。あの日私は治くんを怒らせた(し、結果帰られた)らしいということ以外、何もかもがわからなかった。
どんな顔をしていいかも、どうして治くんが怒ってしまったのかも、これから先また仲良くできるのかも。
慣れない下駄に痛む足で講義棟へ向かう。
あちこちに貼られたチラシには治くんが入っているバレーのサークルのビラもあって、なんだかそれが妙に目についた。
ばかみたいだ。私。
「……Aちゃん!」
「え、」
急に後ろから手首を掴まれ、立ち止まる。振り向けば少しだけ息を切らしたツムさんが追いかけてきていた。
「……治と何があったん」
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雛(プロフ) - ネオンガールさん» ありがとうございます!よかったです!!! (2018年12月24日 18時) (レス) id: 7dd974e27d (このIDを非表示/違反報告)
雛(プロフ) - Blueさん» そう言っていただけるとこちらとしても非常に嬉しいです!最後までお付き合いいただきありがとうございました(;;)次回作も鋭意準備中ですので、楽しみにお待ちいただけたらと思います! (2018年12月24日 18時) (レス) id: 7dd974e27d (このIDを非表示/違反報告)
ネオンガール(プロフ) - 雛さん» めっちゃキュンキュンしました!!笑 (2018年12月24日 12時) (レス) id: 18c4f82065 (このIDを非表示/違反報告)
Blue - この作品のおかげで治くんがめちゃくちゃ好きになりました。作品の完結おめでとうございます!お疲れ様でした!そして、書いて下さりありがとうございました!次回作も楽しみにしています!! (2018年12月24日 1時) (レス) id: 82a4b13a9b (このIDを非表示/違反報告)
雛(プロフ) - 彩兎さん» コメントと労いのお言葉たいへん嬉しいです。恋愛はもちろんですが、食について掘り下げたお話にしたかったので、少食に共感していただけるとこちらも書いた甲斐があるなと思います。こちらこそ最後までお付き合いいただきありがとうございました! (2018年12月24日 0時) (レス) id: 7dd974e27d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雛 | 作者ホームページ:https://twitter.com/pp__synd
作成日時:2018年11月4日 17時