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「……あー、Aちゃん」
「はい、」
油をさすのを怠った機械みたいにギギギギギと音を立てそうなほどに、私の動きはぎこちなかったと思う。恐る恐る彼の方を見上げたら、治くんは結構平気そうな顔をしていた。
やっぱり私だけが振り回されているようで、ちょっとだけ悲しくなったりなんかして。
彼の言葉を待つより先に、私はさっき言いかけた言葉の続きを投げた。
「そう、で、野菜！ 何を持って帰りたい！？」
不自然だろうが何だろうが、なんでもよかった。
一人だけ妙に意識して変にから回るのを馬鹿にされる前に、さっさと空気を元に戻してしまいたかった。
玄関先に置きっぱなしの段ボール箱を開いて、治くんに手招きをする。
「ほんまにいっぱいあるなあ」
そんな声が思ったよりも近くで聞こえると同時に、肩に温かい感触。段ボールの前にしゃがみこんで中を漁る私の肩に手を置いて、治くんが箱の中を覗き込んでいる。
え？ 状況を理解するころには体中またあっつい血が駆け巡り、頭の中がぐらぐらしそうで。
「親戚が農家なんだよね、」
やっとの思いで言葉を返しつつも、意識は完全に私の肩に添えられた彼の手にある。
私に触れたまま隣にしゃがみこんだ治くんの横顔はやっぱり涼しい顔だった。私に触ることくらい、彼にとっては何でもないのだろうか。それとも、私が二十歳にしてはウブすぎるだけなのだろうか。
するりと私から離れた手が、様々な野菜を物色し始めたのをぼんやりと見つめた。私ばっかりドキドキさせられて、なんだか虚しい。
「うーん、まあ適当に貰ってくわ」
「どうぞ好きなだけ持ってって」
スーパーのレジ袋を引っ張り出して彼に渡してやれば、どんどんそれに野菜を詰め込んでいく。
ツムさんと二人暮らしだから、きっとたくさん消費してくれるだろう。
「ありがとう、助かった、私じゃ使いきれないから」
「俺らも食費浮くからありがたいわ、今度なんか奢らせて」
「言ったね？ 奢ってね！」
さっきは虚しいなんて言ってたくせに、単純すぎないか私は。
それでも、治くんみたいな人に私なんかの手が届かないってわかっているから、少しくらい喜んだっていいだろう。そう心の中で言い訳を並べて、勢いをつけて立ち上がった。治くんの過剰摂取で死んでしまうんじゃないかと思うほどに幸せなこの空間が嬉しくて、つい頬が緩む。後で親戚のおばさんにはお礼の手紙を書こう。
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雛(プロフ) - ネオンガールさん» ありがとうございます！よかったです！！！ (2018年12月24日 18時) (
レス) id: 7dd974e27d (このIDを非表示/違反報告)
雛(プロフ) - Blueさん» そう言っていただけるとこちらとしても非常に嬉しいです！最後までお付き合いいただきありがとうございました(；；)次回作も鋭意準備中ですので、楽しみにお待ちいただけたらと思います！ (2018年12月24日 18時) (レス) id: 7dd974e27d (このIDを非表示/違反報告)
ネオンガール(プロフ) - 雛さん» めっちゃキュンキュンしました！！笑 (2018年12月24日 12時) (レス) id: 18c4f82065 (このIDを非表示/違反報告)
Blue - この作品のおかげで治くんがめちゃくちゃ好きになりました。作品の完結おめでとうございます！お疲れ様でした！そして、書いて下さりありがとうございました！次回作も楽しみにしています！！ (2018年12月24日 1時) (レス) id: 82a4b13a9b (このIDを非表示/違反報告)
雛(プロフ) - 彩兎さん» コメントと労いのお言葉たいへん嬉しいです。恋愛はもちろんですが、食について掘り下げたお話にしたかったので、少食に共感していただけるとこちらも書いた甲斐があるなと思います。こちらこそ最後までお付き合いいただきありがとうございました！ (2018年12月24日 0時) (レス) id: 7dd974e27d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：雛
| 作者ホームページ：https://twitter.com/pp__synd
作成日時：2018年11月4日 17時
