26 ページ26
・
気にしなくてもいいと言われても、気になるもんは気になる。
「治くん、家で私の話してるの」
「まあ、唯一のゼミ同期やからなあ」
のらりくらりとした返事に、なんだか落ち着かないのは、ツムさんがあんなことを言ったからだろう。
「唯一のゼミ同期が女って知った瞬間、アイツが勝手になんか言い出しただけやから、すまんな」
「いや、大丈夫、だけど」
治くんは私のことどう思ってるんだろう。急に怖くなった。
デートだなんて浮かれていたから少しくらい期待してもいいのかな、なんて思いあがっていたけれど、ただ私が都合よく受け取っただけかもしれないと思ってしまって。
唯一のゼミ同期、なのだから、私の恋愛感情を持ち出して拗らせたくなんかない。
強がりだと言われてもしょうがないのは百も承知だけど、私は変なことを言い出せなかった。
「ごめんね、こっちこそ」
「……なんでAちゃんが謝るん」
「いや、私が女だから、ツムさんに邪推されちゃって」
「気にせんでええから」
向こうを向いてしまった治くんの表情は分からない。
怒らせたわけじゃないとは信じたくて、ありがとうとだけ呟いた。その言葉を素直に受け取るのが賢明だろう。
送っていく、と言ってくれたから一緒に歩いているが、何を話せばいいのかわからなくなってしまった。
私は治くんが好きで、治くんは今日のことをデートだと言ってくれて、でも私のことは……どう思っているんだろう。
ただのゼミ同期にデートなんて言葉は使わないと思うけれど、関西人特有のノリとかそういう私の知らない世界があるのかもしれないし、云々。
ぐるぐるした思考では答えなんて出せるはずもないまま、私の家についてしまった。
「──ほな、またな」
「うん、ありがとう。写真送っとくね」
「ありがとう」
家の前で手を振って別れを告げた後、背を向けて歩き始めた彼を見つめた。
もう思春期なんて終わってしまったのだから、いたずらに今後の接し方が迷走することはないとは思うけれど、それでも、治くんがわからないまま揺り動く感情に、少しだけ泣きたくなってしまった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 413人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ハイキュー」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
雛(プロフ) - ネオンガールさん» ありがとうございます！よかったです！！！ (2018年12月24日 18時) (
レス) id: 7dd974e27d (このIDを非表示/違反報告)
雛(プロフ) - Blueさん» そう言っていただけるとこちらとしても非常に嬉しいです！最後までお付き合いいただきありがとうございました(；；)次回作も鋭意準備中ですので、楽しみにお待ちいただけたらと思います！ (2018年12月24日 18時) (レス) id: 7dd974e27d (このIDを非表示/違反報告)
ネオンガール(プロフ) - 雛さん» めっちゃキュンキュンしました！！笑 (2018年12月24日 12時) (レス) id: 18c4f82065 (このIDを非表示/違反報告)
Blue - この作品のおかげで治くんがめちゃくちゃ好きになりました。作品の完結おめでとうございます！お疲れ様でした！そして、書いて下さりありがとうございました！次回作も楽しみにしています！！ (2018年12月24日 1時) (レス) id: 82a4b13a9b (このIDを非表示/違反報告)
雛(プロフ) - 彩兎さん» コメントと労いのお言葉たいへん嬉しいです。恋愛はもちろんですが、食について掘り下げたお話にしたかったので、少食に共感していただけるとこちらも書いた甲斐があるなと思います。こちらこそ最後までお付き合いいただきありがとうございました！ (2018年12月24日 0時) (レス) id: 7dd974e27d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：雛
| 作者ホームページ：https://twitter.com/pp__synd
作成日時：2018年11月4日 17時
