三 ページ3
「高杉晋助。聞き覚えはねーか?」
当ててみろ、だなんて言い放った矢先に彼はある名前を口にした。
「ないですね。私はその名前を知っているかもしれないけれど、さっきあなたが言った通り、私は忘れてしまっている。」
確かに知らない。
けれど全く初めて聞く発音にしては、口があまりに自然にその形を作り、声帯が心地よく震えた。
懐かしい。
いや、
あたたかい。
「俺の名だ。」
「貴方は、高杉さん。」
「ああ。」
彼の名を本人から教えてもらった私は、一体彼の何を当てればいいのだろうか。
不思議に思っていると、内心を読んだかのように彼ーーー高杉さんは答えをくれる。
「俺はお前にとっての誰なのか、思い出せ。そうすればここから出してやる。」
私にとっての、彼。
今の私にとっては、目の前に現れた不審な男。
それ以上でもそれ以下でもない。
もちろん彼が問うているのは私が今忘れている部分の、高杉さんに関する記憶のことだろう。
しかし、ちょっと待ってほしい。
「ということは、それまで私はこの部屋から出してもらえないんでしょうか。」
「少なくともお前を外に出す気は、俺にはねえ。」
「そんな。」
いわゆる、かんきん。
(記憶が無いので定かではないが場合によってはここに誘拐も加わることになるのではないだろうか)
なんて物騒な響きだろう。
他人の身の自由を一方的に奪う。
それは立派に人権を無視し行為であり、犯罪である。
彼はそれを承知の上で、この不敵な笑みを浮かべているのだろう。
どうやら冗談ではなさそうだ。
その漢字に文字に怖気付いた私は、今更ながら高杉さんが少し怖いと思った。
もっと距離を取りたくて少し後ずさると、足にはめられた枷ががちゃりっと重々しい音を響かせる。
今の状況を物語っているようで、なんだか虚しい。
「えっと、高杉さんは。どこかへ行ってしまうんですか..?閉じ込められるというのは......その、1人で閉じ込められるっていうことですか?」
不思議とこの狂気じみた空間に恐怖はなかった。
ただ緊張して、つっかえつっかえ言葉を吐き出す。
酸素が薄い。
なんとも息がしにくい部屋だと思った。
「................。」
高杉さんは何も言わない。
「...................おめえは馬鹿か?」
しばらくして、小さくそう零した。
「馬鹿ではない、と思います。多分。記憶が無いのでわかりませんが。」
高杉さんはまた黙ってしまった。
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沖神 - そ…そうですかw…ごめんなさいw (2017年8月16日 1時) (レス) id: 3e81e6a0f7 (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - 沖神さん» ......む、無料....ですよ! (2017年8月12日 11時) (レス) id: d0946bab96 (このIDを非表示/違反報告)
沖神 - これって有料じゃないです…よ…ね?………… (2017年8月12日 2時) (レス) id: 3e81e6a0f7 (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - あかあしえいたくんさん» ご感想お寄せいただきすごくすごくうれしいです...。こちらこそ、ぜひ応援よろしくお願いいたします。コメントありがとうございました。 (2017年7月13日 0時) (レス) id: 5bb7c4f37e (このIDを非表示/違反報告)
あかあしえいたくん(プロフ) - 高杉すごいドキドキします!すごくすごくおもしろいです!これからもがんばってください!ぜひ、応援させてください! (2017年7月10日 14時) (レス) id: 04caca4bb1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しののめ | 作者ホームページ:http://nanos.jp/aoikasou/
作成日時:2017年5月14日 20時