空虚 ページ39
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ツーツーツー
無際限に掻き乱された脳内を木霊する。
状況は読み込めていない、けれど、事態は既に引き返せない所まで来ている事だけは理解できた。
「ふざけんなっ!!」
携帯をへし折りそうになる手に必死で自制を聞かせる。落ち着け、冷静になれ。いくら念じても湧き上がってくる衝動を抑えることはできなかった。
総悟にも連絡を入れ真選組を動かし、人手を増やして捜索を行う。
職権乱用じゃない。『女性誘拐事件発生の可能性あり』という大義名分のもと、堂々と私情の為に隊を動かしたのだ。
…一時間と少しが経過しても、発見の報告は入らない。
町中を駆け回りながら、万事屋の番号に電話をかけ続けた。周囲に不審な人物や逃げ回る女性を見なかったかと聞いて回った。
ありえない程取り乱している自分が居ることに気づき、余りの馬鹿さ加減に笑いがこぼれる。
これが答えだ。
結局俺はこれほどに、あいつが、
「おい。」
背後から聞き覚えのある声がした。奴の手には着信音の鳴り響く携帯が握られている。
逆光のせいで表情は読めないけれど、奴は、いったいどの面下げてこの場に来ているのか。
今はその銀髪が憎々しく思える。
「――――万事屋。」
「....探してんだろ、Aの事。」
「んだよその言い方。」
「連れてってやるよ、あいつの所に。」
こいつは、いったい何を言っているんだ。
とっくにキャパオーバーを迎えた頭は上手く働かない。
恐ろしいほどに冷え切った野郎の目は、とても正気だとは思えなかった。酔った様な、全てを捨て去ったような。いっそ清々しくも思える顔つきで、淡々と言葉を紡ぐ。
「っざけんじゃねえよ!嫁さんほっぽらかして、挙句Aに何しやがった!!」
「なんもしてねえよ。俺は、な。」
「んだとてめェ!!」
刀に手を掛け切りかかろうと体制を作るも、奴は全く応戦する気が無いのか、少しも警戒する気配を見せない。
すっと目を細めて.....泣き出しそうな顔をした。
とても、悲しい。
あいつみたいな。
「いいから。黙ってついてこい。」
こちらに背を向けて歩きはじめる奴は、今まで見たことない姿をしていた。黒いブーツが酷く不安定な後を残す。
虚ろな目の奴には、殺意も狂気も感じられない。
そこにあるのは、ただの、凄惨な現実。
戦場で見せる気迫。人々を救う信念。日々の呈堕落。
今の野郎は、今までのどの顔にも当てはまらなかった。
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月見おはぎ - ただの思い過ごしかもしれませんが、物語の中にDOESさんの曲名が入っていて銀魂愛を感じました。最高のお話を有り難うございます。 (2021年9月26日 18時) (レス) @page11 id: f413eaa44e (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - コメントするのこれが初めてです、、今まで読んだ作品で一番切なくて一番胸が痛くなって一番感動したお話でした。素敵な作品をありがとうございました。。 (2020年3月17日 23時) (レス) id: 97657b2818 (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - なるぽんずさん» 燻った想いたちが不完全燃焼の状態で終焉を迎える。そんな物語を目指しました。そのようにおっしゃって頂けてうれしい限りです。課題頑張ってください...!高杉長編と沖田の心中ロメオを更新しております。そちらの次作でもお付き合いいただければ幸いです。 (2017年7月31日 21時) (レス) id: 5bb7c4f37e (このIDを非表示/違反報告)
なるぽんず - 読んでいて胸が苦しくなるような、心に響くお話でした。読み終わった今も悶々とした気持ちでいます。夏の宿題の読書感想文、できることならこれで書かせていただきたいくらいです(;_;) 切なくて悲しいけれどじんとくるお話をありがとうございました。次回作楽しみです (2017年7月31日 13時) (レス) id: fa67502a01 (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - ローズさん» 執筆している側としても居酒屋あたりを思い返すと、考えさせられるものがあります....。最終話以降の展開の細かい展開は、やはり読者様達の御想像にお任せしたいとおもいます。こちらこそ、最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました。 (2017年7月24日 22時) (レス) id: 5bb7c4f37e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しののめ | 作者ホームページ:http://nanos.jp/aoikasou/
作成日時:2017年6月10日 21時