最愛 ページ37
「どういうことだ?」
お前らはつい数日前、あんなにも幸せそうに笑っていたじゃないか。
殆ど会ったばかりだけれど、女は躊躇うことなく心中を吐露する。
誰でもいいから打ち明けて楽になってしまいたい、といった風だった。
「....プロポーズの時、言われていたんです。どうしても忘れられない女がいるから、お前を一番に愛することはできないって。」
「ひでぇプロポーズだな。んな台詞、聞いた事ねぇ。」
「本当にそうですよね。...でもいってくれたんです。―――いずれあいつの事を忘れて一番に愛せるようになるまで、俺の事を待っていて欲しい。そうしたら俺の全部をささげて、絶対に幸せにしてみせるって。」
悲哀に満ち、濡れた瞳。
愛おしそうでそれでいて何処か諦めたような女は、微笑を零した。
「不誠実な人でしょう?」
「ああ、一発殴ってもお釣りがくるくれぇにはな。」
「だから言ってやったんです。私、大人しく待っているようなタイプではないですから。銀さん引きずってでも一位の座手に入れてやるっ!って。」
小さくガッツポーズを作ってみせる女は、から元気という単語がしっくりくる。
その地に落とされた視線が全てを語っているようだ。
「.....でも、ダメですねやっぱり。あの人の一番は今でも彼女のまま。」
「お前、知ってんのか。」
「ええ。何も知らないふりをして、全部知ってるんです。.......簪屋の彼女でしょう?」
何も映さない硝子の様な目には、劣等感が溢れている。
誰もが羨む人生を歩みながらも、いくら望めど手に入らない物があるのだと女は言った。
世の中は心底理不尽に出来ている。
「添い遂げる誓いを交わしながらも、永遠に愛されることのない女と。最愛でありながら添い遂げることのできない女。結局―――どちらが幸せなんでしょうね。」
貴方はどう思いますか?と尋ねてくる。
...んなもん俺が聞きてえくらいだ。
そんな問いに模範解答が存在するのなら、きっと人が悩むことをやめるだろう。
「今日は二人で過ごそうって約束していたのに。彼女の名を聞いたとたん、血相を変えて全力疾走ですよ?嫉妬しようにもそれを何処に向ければいいのかすらわからないんです。」
変わらず遠くの空を見つめる女は、傘を持っていなかった。
自嘲を零すその姿があまりにも空虚で、目を背けたくなる。
交差する思いは、どうしてこうも噛みあわないのだろうか。
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月見おはぎ - ただの思い過ごしかもしれませんが、物語の中にDOESさんの曲名が入っていて銀魂愛を感じました。最高のお話を有り難うございます。 (2021年9月26日 18時) (レス) @page11 id: f413eaa44e (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - コメントするのこれが初めてです、、今まで読んだ作品で一番切なくて一番胸が痛くなって一番感動したお話でした。素敵な作品をありがとうございました。。 (2020年3月17日 23時) (レス) id: 97657b2818 (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - なるぽんずさん» 燻った想いたちが不完全燃焼の状態で終焉を迎える。そんな物語を目指しました。そのようにおっしゃって頂けてうれしい限りです。課題頑張ってください...!高杉長編と沖田の心中ロメオを更新しております。そちらの次作でもお付き合いいただければ幸いです。 (2017年7月31日 21時) (レス) id: 5bb7c4f37e (このIDを非表示/違反報告)
なるぽんず - 読んでいて胸が苦しくなるような、心に響くお話でした。読み終わった今も悶々とした気持ちでいます。夏の宿題の読書感想文、できることならこれで書かせていただきたいくらいです(;_;) 切なくて悲しいけれどじんとくるお話をありがとうございました。次回作楽しみです (2017年7月31日 13時) (レス) id: fa67502a01 (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - ローズさん» 執筆している側としても居酒屋あたりを思い返すと、考えさせられるものがあります....。最終話以降の展開の細かい展開は、やはり読者様達の御想像にお任せしたいとおもいます。こちらこそ、最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました。 (2017年7月24日 22時) (レス) id: 5bb7c4f37e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しののめ | 作者ホームページ:http://nanos.jp/aoikasou/
作成日時:2017年6月10日 21時