必然 ページ31
「あっ見てください土方さん!」
昼食を終え、折角だから商店街も一度見てから戻ろうという話になった。食べ歩き名所として雑誌の表紙を飾るような場所であるからして、六割は飲食店が占めている。しかし番傘だの手ぬぐいだのと、風変わりでいて童心を擽るような品が数多く並んでいた。
その中に紛れていた狸の置物がとても可愛らしくて、はしゃぎながら土方さんの方を振り返る。
けれどそこに彼の姿は無く。
ただ人の群れが通りを埋め尽くし、ひしめき合っているだけだった。
「....土方さん?」
名を呼んでも当然ながら返答はない。
本当につい数分前までは、暴言を吐くオウムと互角に言い合いをしたり、骨董品を興味深そうに眺めたりしていたのに。私も店に夢中になって、背後の気配が消えたことに気が付かなかった。
とりあえず携帯を取出し『今何処に居ますか?』と入力し、続けて自分の周囲の様子を伝える文章も付け加えて送信する。
「何処行っちゃったんだろう。」
あまり下手に動き回らないのが得策だろうが、通りには完全に人の流れが出来上がっていて、途中で抜け出すのは至難の業だ。
あっという間に通行人に囲まれてしまった。
だが仕方がない。何とか人をかき分けて進む。
すると案の定、後ろにいた人に荷物を盛大にぶつけてしまった。
「あっ、すみません。」
「おいおい。大丈夫かお前。」
降ってきたのは、倦怠感を帯びた、声。
周囲の喧騒が一瞬で耳に入らなくなった。
今私の鼓膜を震わせるのは、その喉から発せられる音だけ。
お互い目を見開いて息をのんだ。
「......A。」
「ぎん、ちゃん。...銀ちゃんも遊びに来てたんだ。奇遇だね。」
まるで立った二人しかここに居ないみたいだった。
簪屋では普段通り世間話が出来るのに。不意打ちみたいに顔を合わせたせいで、今まで蓄積してきた気まずい空気が一気に襲って来たかのようだ。
今は一人でも、きっと銀ちゃんはあの女性と一緒に来ているんだろうと思った。
「...土方の野郎と、来てんのか。」
「......うん。」
もしかして銀ちゃんはもう私の事を見かけていたのだろうか。
例えば、さっき。土方さんが私の目を塞いだときなんかに。
ああ、まただ。
銀ちゃんはまた、私を抱いた時の様な、金の簪を差し出してきたときの様な。
悲痛そうな顔をする。
「この商店街本当に飽きないよね。」
「ああ。」
「さっき、可愛い置物があって。」
「そうか。」
「...それで、」
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月見おはぎ - ただの思い過ごしかもしれませんが、物語の中にDOESさんの曲名が入っていて銀魂愛を感じました。最高のお話を有り難うございます。 (2021年9月26日 18時) (レス) @page11 id: f413eaa44e (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - コメントするのこれが初めてです、、今まで読んだ作品で一番切なくて一番胸が痛くなって一番感動したお話でした。素敵な作品をありがとうございました。。 (2020年3月17日 23時) (レス) id: 97657b2818 (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - なるぽんずさん» 燻った想いたちが不完全燃焼の状態で終焉を迎える。そんな物語を目指しました。そのようにおっしゃって頂けてうれしい限りです。課題頑張ってください...!高杉長編と沖田の心中ロメオを更新しております。そちらの次作でもお付き合いいただければ幸いです。 (2017年7月31日 21時) (レス) id: 5bb7c4f37e (このIDを非表示/違反報告)
なるぽんず - 読んでいて胸が苦しくなるような、心に響くお話でした。読み終わった今も悶々とした気持ちでいます。夏の宿題の読書感想文、できることならこれで書かせていただきたいくらいです(;_;) 切なくて悲しいけれどじんとくるお話をありがとうございました。次回作楽しみです (2017年7月31日 13時) (レス) id: fa67502a01 (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - ローズさん» 執筆している側としても居酒屋あたりを思い返すと、考えさせられるものがあります....。最終話以降の展開の細かい展開は、やはり読者様達の御想像にお任せしたいとおもいます。こちらこそ、最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました。 (2017年7月24日 22時) (レス) id: 5bb7c4f37e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しののめ | 作者ホームページ:http://nanos.jp/aoikasou/
作成日時:2017年6月10日 21時