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結実 ページ21

銀ちゃんは何も言わなかった。

ただ、離れていこうとする私の身体をもう一度引き寄せて、抱きしめて。
互いの心臓が重なると、両者とも緊張しているんだと分る。

普段から甘い物ばっかり食べてごろごろしてるくせに、その胸板は厚く引き締まった体をしていた。
そういう所が本当にずるい人。

いっつもバカみたいなことしか言わないくせに、
こういう時ばっかり恰好が付きすぎる位の事をいって、周囲の人を救ってしまうんだ。


「この簪は銀ちゃんにもっと大切な人が出来たら、その人にでもあげてよ。...こんな私じゃもう、似合わないもの。」


幾つもの業を背負い、恥の多い生涯を送ってきた。

きっとこれからも変わらず短い寿命をすり減らしていくのだろう。

それでもいいと受け止めてくれた銀ちゃんに、ついには甘えることもできず逃げ出す私をどうか、どうか、許して欲しい。



「んなこたぁねぇよ。お前以上にこれが似合う奴も.....俺が求める奴も、いやしねぇ。」



私を抱きしめる腕に、一層力が込められる。
いつの間にか手から零れ落ちてしまう感情を、必死につなぎとめるみたいに。

銀ちゃんがくれる嘘偽りない愛の言葉も、一時の感情であると思いたかった。

きっとこの先もっといい人が現れるよ。
だってあなたは人を惹きつける力を持っている。
その人だって、そんな銀ちゃんに魅了されるに決まっているから。

一緒に子供を授かって、家庭を築いて、生涯を共にできる相手。

私には叶えられないその全てを、銀ちゃんに与えられる人が。









どうか。

彼が、幸せになりますように。









▼△


それから、可能な限り仕事は続けた。
簪屋の面する道を銀ちゃんが通りかかると、「最近調子どうよ。」と声をかけてくることがたびたびある。
私を気に掛けてくれている風だった。

そのたびに徐々に募る、恋心。
留まる事を知らないそれはあいも変わらず私を苦しめ続ける。。

恋人になる前の万事屋で過ごした日々を彷彿とされる私たちの関係は、友人かはたまた家族か。
いや、それら二つに限りなく近く、それでいて明らかに異なる物になっていた。








―――けれど、ある日。
街中であの綺麗な女性を見かけた。


「あの遅くなってしまいましたけど、その節は有難うございました。」


道を案内してくれたお礼に、と菓子を届けに来てくれた。
暖かな笑顔を浮かべる彼女の黒髪には、金色の花が咲いている。


ああ。
とてもよく、似合っている。


-

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設定タグ:銀魂 , 土方十四郎 , 坂田銀時   
作品ジャンル:アニメ
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月見おはぎ - ただの思い過ごしかもしれませんが、物語の中にDOESさんの曲名が入っていて銀魂愛を感じました。最高のお話を有り難うございます。 (2021年9月26日 18時) (レス) @page11 id: f413eaa44e (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - コメントするのこれが初めてです、、今まで読んだ作品で一番切なくて一番胸が痛くなって一番感動したお話でした。素敵な作品をありがとうございました。。 (2020年3月17日 23時) (レス) id: 97657b2818 (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - なるぽんずさん» 燻った想いたちが不完全燃焼の状態で終焉を迎える。そんな物語を目指しました。そのようにおっしゃって頂けてうれしい限りです。課題頑張ってください...!高杉長編と沖田の心中ロメオを更新しております。そちらの次作でもお付き合いいただければ幸いです。 (2017年7月31日 21時) (レス) id: 5bb7c4f37e (このIDを非表示/違反報告)
なるぽんず - 読んでいて胸が苦しくなるような、心に響くお話でした。読み終わった今も悶々とした気持ちでいます。夏の宿題の読書感想文、できることならこれで書かせていただきたいくらいです(;_;) 切なくて悲しいけれどじんとくるお話をありがとうございました。次回作楽しみです (2017年7月31日 13時) (レス) id: fa67502a01 (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - ローズさん» 執筆している側としても居酒屋あたりを思い返すと、考えさせられるものがあります....。最終話以降の展開の細かい展開は、やはり読者様達の御想像にお任せしたいとおもいます。こちらこそ、最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました。 (2017年7月24日 22時) (レス) id: 5bb7c4f37e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:しののめ | 作者ホームページ:http://nanos.jp/aoikasou/  
作成日時:2017年6月10日 21時

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